第5話 ぼくらの世界(後編)―8
「ちっ……あと少しだったんだがな」
妙なのは、天狗の右腕からは一滴の血も流れ出していないことだ。
その代わりなのか、黒い靄が蠢く触手のように、切断面の周りを覆っている。
「まあ、いい。邪魔をするなら、殺すだけだ」
「あァ? てめぇ、誰に向かってモノを言ってんだ」
冷静に話す天狗に対して、ランドは興奮した様子で大見得を切る。
「俺ぁ“地裂の猛牛”ランド様だぜ!! てめぇみたいなぽっと出が、俺を倒せるわけがねぇだろうがッ!!」
その威勢の良さの自信は、どこから来ているのだろうか。
出会い方が最悪だったため一切思ったことがなかったが、正直、今のランドは頼もしく、カッコイイとすら感じるほどだ。
……その手にした剣が、途中で折れていなかったのならば。
「ランドさん? その剣はいったい……?」
「エクスカリバーだぜ!! 勇者様の言う通り、きっちり抜いてきてやったぜ!!」
嘘だ。
絶対、力任せに引っこ抜いてる。
その結果、刀身が折れている。
「これでコイツも俺を認めざるを得ないだろうと思ったんだがな。まさか、こんなわけわかんねぇヤツにやられちまってるとは。だから、勇者様のお付きには戦士が必要だろうって言ったんだ!」
まさか本当に伝説の剣(偽)を抜いた上で、ぼくらを追いかけてきていたとは。
ランドの行動力と馬鹿さ加減に、涙が出るような思いだった。
「って、そういえば、ランドさんがいるってことは――」
「もちろん、私も来てますわよ」
デンスは既にナギの元まで駆け寄って、肩を貸しナギを立たせようとしていた。
「おめぇら、ここは俺に任せなっ!! デンスとシューは、ナギを安全な場所まで連れてってくれ! どうやら、見た目以上に相当やばい状態みてぇだからよ!」
「分かってますわ。シュー様、ここは一度退却しましょう。ナギの手当ての方が優先です」
う……ん、とぼくはぎこちない返事をする。
デンスはナギと共にこの場を離脱していったが……ぼくの心残りは、もちろんリンのことだった。
ランドと天狗が激しい戦いを繰り広げる中、リンの姿はどこにも見えなかった。
いつの間にか意識を取り戻したのだろうか?
それとも、ぼくらが移動して見失ってしまったのか。
リンとの再会――そして未知なる襲撃者との戦いは、異世界に来てからのぼくらに、初めての敗北の苦渋を味合わせたのだった。




