第5話 ぼくらの世界(後編)―7
「やめろおおおおおおおお!!」
苦痛からか、ナギは白目を剥き絶叫をあげ続けている。
ぼくは何度も天狗の背中に体当たりを食らわせるが、所詮はぬいぐるみによる一撃だ、何のダメージにもなっている様子が無い。
「が……はっ……! やめ、ろ……!! ああああああああああああっ!!」
ナギは黒い靄に包まれた天狗の右腕を掴むと、必死に自分の体から抜こうとしているようだ。
だが、筋肉の隆起した腕は丸太のように太く、ナギの力ではビクともしない。
「やめろ……これ以上、オレの記憶に……入り込むなッ!!」
「……諦めろ。貴様に、この力はふさわしくない。おとなしくここで死んだ方が……貴様のためだッ!」
どういうことだ?
天狗は何を言っている……? 勇者の力について、何か知っているのか?
「うああああああああああああああああああ!! 壊れる……オレの……オレの記憶がッ……!!」
天を仰いだナギは全身を痙攣させ、その体からは徐々に力が抜けていく。
まずい……このままじゃ本当に、ナギが殺されてしまう……!!
「――あっ!?」
その時、視界の端に何かが光っているのが見えた。
薄い緑色の光。
ナギが落としたティルヴィングだ。
ティルヴィングの刀身が、何かに呼応するように明滅を繰り返している。
これを使えということか?
ぼくが急いで剣に近付こうとした、その瞬間だった――
もう一つの眩い光が、木々の枝の隙間を塗って真っ直ぐに下りて来る。
オレンジ色の一筋の閃光が、天狗の右腕を真っ二つに斬り裂いていた。
「よォ……うちの勇者様に、何をしてくれてんだ?」
オレンジ色に輝く剣を手に上空から降りてきたのは――ランドだった。
どうしてここに? しかもその剣は?
様々な疑問が頭の中を駆け抜けたが、目の前では既に新たな戦いが始まっていた。
「てめぇはよォ!!」
ランドの前蹴りが、天狗の巨躯を弾き飛ばした。
天狗は叩き斬られた右腕の切断面を押さえながらも、バランスを取って後ろに着地する。




