第1話 これが勇者ですか?―4
酒場の外に出されたナギは、村の自警団と、さらには酒場で転ばせた二人の男に囲まれていた。
その上、なんだなんだと村の人々が野次馬として集まってくる。
もはや逃げ場はない、完全に包囲されたと言っていいだろう。
「お前だな、先程から白昼堂々に家に入り込んでは、タンスを開けたり壷を割ったりして、勝手に物を盗っていく泥棒というのは!」
自警団の若者が、ナギに竹槍を突きつけ勇ましく吠えた。
ナギはポリポリと頬を掻きながら、悪びれもせずに言う。
「んまー、オレは勇者だからな。勇者に協力をするのは、一般市民であるお前らの務めだろ」
「な、何が勇者だ!? やってることはコソ泥と何も変わらないじゃないか!」
「だから、勇者っていうのは大体そんなモンなんだって……あ、これ見る?」
ナギは腰に提げたティルヴィングをちょっとだけ抜こうとした。
鞘からはみ出した刀身から眩い緑の輝きが放たれる。
何の説明も必要ない。
ただ見る者を圧倒する、凄味としか言いようのない剣の輝きだった。
自警団の人々も、それを目の当たりにしてつい後ずさっている。
「た、確かに聞いたことはあるぞ。伝説の剣を携えた勇者が、世直しのために諸国漫遊の旅に出ていると」
「だが、こんな子供が勇者なのか? それに世直しどころか……完全に治安を荒らしているようにしか見えなかったのだが」
自警団の男たちは顔を見合わせると、口々に信じられない、と正直な感想を口にしていた。
ナギのこめかみに、ピキピキと青筋がはしる。
「お前ら、いい加減にしないと、マジで“ゆうしゃパワー”で――」
「まあ待ちなされ! その子供が勇者であろうとなかろうと……わしらにはその子を糾弾すべき理由がある!」
そう言って自警団の後ろから姿を現したのは、白い髭を蓄えた老人と、先程ナギが押し入り十ゴールドを頂戴した家の老婆だった。
「村長!」
「この子供はな、つい先ほどわしの家に入ってきて、妻を転ばせ怪我をさせたのだ。ほれ見てみろ、これが動かぬ証拠じゃ」
白い髭の老人はこの村の村長らしく、老婆の肘の辺りを指差した。
確かに、転んだ時にぶつけたのか、肘にちっちゃく青い痣が出来ている。
「おいおい、転んだのはオレの責任じゃねーし、そんなしょーもない怪我程度で……」
「しょうもないとは何事じゃ!! わしらくらいの年になるとちょっとした怪我でも治らんのじゃ! ましてや打ち身だけだったから良かったものの、骨折ともなれば命に関わるほどの大事になるんじゃぞ!!」
村長は禿げ頭を真っ赤にし、杖をぶんぶんと振り回して激怒した。
老婆も同じく怒り狂って杖をぶんぶん振り回している。
「そんなオーバーアクションするから転ぶんだろ……つかどう見ても元気そうだし。まあいいや、めんどくせぇ」
これ以上は話の無駄だと、ナギはつかつかと老婆に歩み寄っていく。
「そ、村長危ない! 下がってください!」
自警団の一人が慌てて飛び出すが、それよりも先に、ナギは老婆の痣が出来た腕を掴んでいた。
何をするつもりなのかと、一瞬で場が緊張に包まれたが――
「はい、これでもう大丈夫」
ナギの右手から放たれた柔らかな光。
その光が消え失せると、老婆の腕の痣は影も形も無くなっていた。
「な、な……なんじゃあこりゃああああ!?」
仰天した老婆は、曲がった腰が治りそうな勢いで仰け反った。
勢いで入れ歯がまた吹っ飛んで、地面の上をころころと転がっていく。
「これでもう疑う余地もないだろ? 勇者だけが使える奇跡の力だ。分かったなら、いい加減道を開けてくれよ」
ぱたぱたと手を振るナギに対し、村の人々は半信半疑の状態、というか感情的にナギを勇者と認めたくなさそうである。
「ぐぬぬ……そこまで言うのなら、一つ、お主を勇者と見込んで依頼をしようではないか――」
そこで苦し紛れに村長が唱えた提案。
それこそが、今の状況の発端だったわけだが――