表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/354

第5話 ぼくらの世界(後編)―5

 ドスッ、ドスッと、鈍い殴打の音が何度も響く。


 ナギの顔は、既に鼻血や吐きだした血でぐしゃぐしゃになっていた。

 ナギがもう戦えないのは、誰の目に見ても明らかだ。


 それなのに、天狗のお面を付けた大男は、まるで当然のことのように何度もナギを痛めつけていた。


「が……がはっ……」


「貴様か……勇者を名乗る男は」


 天狗はうつ伏せに倒れたナギの髪を掴むと、強引にその顔を上げさせる。

 ナギの腫れ上がった目は、虚ろに空を見つめていた。


「も、もう止めてください! それ以上やったら、ナギは……っ!」


 見ていられない――ぼくは二人の間に割って入る。

 天狗の面の奥の鋭い眼光が、真正面からぼくを突き刺した。


 この男……いったい何が目的なんだ?

 身なりからして、明らかに人狼でも聖騎士軍でもない。


 言いようのない異物感がある男だが……ぼくはその違和感の正体にはっきり気付けないでいる。


「ばか……やろう。おまえは、あっちに行ってろ……っ!」


「ふむ。まだ仲間を気遣う余裕があるとは、さすがは勇者といったところだな。だが――」


 天狗は大きな手でナギの首を絞めると、そのまま大木の幹にナギを押し付けた。


 ナギは苦悶の表情を浮かべ、呻いていた。

 このままでは、ナギが殺されてしまう。


「その力、あまりに危険すぎる」


「か……っ! ……ったら」


 ナギは天狗の面の前に開いた右手を突き出した。

 ハッと反応した天狗の手が、僅かに力を緩める。


「だったら、さっさと首の骨でも折ってオレを殺してみろよ。だから、こうなるんだぜ?」


 ナギの手のひらに集まっていく魔力。

 天狗はとっさに手を離して、ナギから距離を取ろうと後ろに飛んだ。


 だが、ナギの手には既に魔力が渦巻いていて――ぽふっと、乾いた音を立てて消えた。


「…………んだよ。出しカスも、一回にカウントされるの……かよ」


 それが、ナギの体力の限界だったらしい。

 ナギはそのまま勢いよくうつ伏せに倒れ、ごほっと血の塊を吐き出した。


 ……そう、か。


 ペトラルカとラウラを火の玉で吹き飛ばした時。

 リンを捕まえようと植物を操った時。


 そして、日中にヴーツェたちを追い払おうとした時と――ナギは既に今日、“ゆうしゃパワー”を三回使っていたのだ。


 次に力が回復するのは、六時間の睡眠を取った後に、夜が明けるのを待たなくてはならない。


「……フン、こけおどしか。無意味に焦らせおって」


「どうして――」


 ナギにトドメを刺そうと迫る天狗の前に、ぼくはふよふよと進み出る。


「どうして、ナギが“ゆうしゃパワー”を使うことが分かったんですか」


「……なんだ、貴様は」


 天狗の面の奥から、殺気に満ちた視線がぼくを貫く。


 怖い。

 今すぐこの場から消えてなくなりたいほど、この天狗からは危険な空気しか感じられない。


 だけど……今はぼくがやるしかない。

 この場でナギを守れるのは、ぼくだけなんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ