第5話 ぼくらの世界(後編)―4
「かっ……ぐ、くぁ……!!」
リンの苦しげな嗚咽が漏れていた。
……聞いているだけで、胸が苦しくなる。
きっとあの時も、リンはこうして――
「すまねぇ、リン」
苦しむ姿を見かねたのだろう。
ナギはそっとリンに歩み寄ると、その鳩尾に鋭く拳を叩き込んだ。
ぐらり、と揺れるリンのシルエット。
するすると蔦が離れていくと、リンは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
恐る恐る近付いてみたが、リンは何の反応も見せない。
完全に気を失っているようである。
「……やっちゃったね」
「ちゃった、ってどういう意味だよ。人を悪人みたいに言うな」
「完全にさっきの絵面、こっちが悪役サイドだったけど……」
だが何にせよ、ぼくらは聖騎士軍からリンを取り戻すことに成功したのだ。
まずは一旦、あいつらの目の届かないところまで逃げて、落ち着いたところで話をしたいが……。
「とりあえず森の奥まで行くぞ。今はそっちしか逃げ場がねぇ」
「リンのこと、運べるかな。手伝えないのが申し訳ないけど……」
「そうだな、コイツ筋肉あるから、オレらより重いかもしれねー」
「……殺されるよ? 聞かれてたら」
「うむ、それは間違いない」
それはなんだか、懐かしさすら感じるようなやり取りで。
ぼくらは思わず、吹き出してしまっていた。
久しぶりの感覚だ。
まるでぼくらの世界に帰ってきたような、愛おしさでぎゅっと抱きしめたくなるような……そんな空気感。
これだけでも、異世界に飛ばされた甲斐があったものだと、そう思えるような瞬間が、確かにそこにはあった。
もっともそれは、ほんの束の間の出来事で、ぼくらの平穏は息つく暇もなく壊されることになる――
「――え?」
その殺気は、何の前触れもなく頭上から降ってきた。
ぼくは瞬時に吹き飛ばされて、リンを抱えようとしていたナギは後頭部に重い一撃を受ける。
「な……っ!?」
揺らぐ視界の中、血のついた拳を見つめているのは、天狗の面を被った半裸の大男であった。
そして、その男の放つ殺気こそが、ぼくらを眠りから目覚めさせたものだったのだと――ようやくぼくは、身に迫る危険の正体に気がついたのだった。




