第5話 ぼくらの世界(後編)―3
「ねぇリン! ぼくだよ、シューだよ! 覚えてないの? せめてぼくらのことが分かるかくらい、教えてくれたって――」
「だから貴様らは誰と……勘違いしているんだッ!!」
不意に足を止めるリン。
その矛先は、上空のぼくへと向けられていた。
「え――」
「貴様の声、耳障りだ……ッ! 消えろッ!!」
それまでの無表情から一変し、リンは憎しみのこもった目でぼくを睨みつけてきた。
そして、上空に対して黒い剣を一閃させる。
何もない、文字通り空を斬った一撃だったが――
「避けろ、シュー!!」
ナギの叫びでハッとした。
確かに、夜の闇に紛れて視認しにくかったが、斬撃が黒い波動となって、木々の枝葉を切り裂きながらぼく目掛けて突き進んできていた。
「う、うわあっ!?」
とっさに高度を落とし自由落下を行う。
ほんの数センチ頭上を、ヴンと鋭い音を立てて波動が通り過ぎていった。
「な、何だ今のはっ……!?」
「コイツ、元からアホみてーに強かった上に……今は妙な力まで会得してるみてーだなっ!!」
リンがぼくに注意を向けているうちに、ナギが後ろから斬りかかっていった。
しかし、リンはそちらに一瞥もくれることはなく。
「ンなっ!?」
木々に覆われた薄闇の中、リンの背後で一段と濃い闇が盛り上がったかと思うと、それは剣を形取り、ティルヴィングにより一撃を受け止めた。
「影使いッ!?」
「邪魔を……するなッ!!」
振り向き様、リンが得意としていた回し蹴りがナギの横っ腹を直撃した。
重い一撃だった。
まともに直撃を受ければひとたまりもないだろう、あばら骨を何本も持っていくような鋭い蹴りだ。
もちろんそれは、前述の通り“まともに直撃すれば”の話だが――
「へへっ。そう来ると思ってたぜ」
突き出した足が戻らず、リンもその異変に気がついたようである。
リンの細く長い足には、地面を這っていた蔦が、まるで意思を持ったように巻きついていた。
「こんなものッ」
すぐさま剣で蔦を叩き斬ろうとするリン。
しかし、その右腕にも木から伸びた蔦が絡みつく。
「こ、これはっ……!?」
「悪いな。これが“ゆうしゃパワー”ってやつだぜ。お前にゃ聞きたいことが山積みだからよ、ちょっとの間、眠っててもらうぜ」
憎々しげな目で、リンはナギを睨みつけた。
リンの背中の影が、再び刃をかたどって盛り上がる。
「そんな暇は与えねーよ」
しかし止めを刺すように、一本の細い蔦がリンの首に絡みついた。
既にリンの四肢は、周囲の蔦によって縛り付けられている。




