第5話 ぼくらの世界(後編)―2
「今の動き……確実にリンのものだ。やっぱお前は、剣を振るより格闘術を使ってた方が似合ってるよ」
リンは無言のまま、茂みの中のナギに歩み寄っていく。
まるでナギの言葉など何一つ届いていないように……その瞳には、ぼくらの姿など何も映っていないようだった。
「う……さっきの爆発は、なんだったんスか……?」
その時だ。
最悪としか言いようがないタイミングで、ラウラが目を覚ましたようだった。
「あっ! 大変ッス、ペトラルカちゃん! 馬車が壊れてゼロゼロイチが脱走したみたいッス!」
「う、うん……? ……いや、そこに、ちゃんといるじゃねぇか」
ラウラが声をかけたことによって、ペトラルカも目を覚ましてしまったらしい。
このままでは、三対一……いや、一応、ぼくも頭数に入れるなら三対二の状況である。
「ナギ――」
「分かってる、いったん退くぞッ!!」
ぼくが声をかけるよりも早く、ナギは茂みの奥へと逃げ出していた。
するとそれを見た瞬間、弾かれたようにリンも駆け出した。
「あっ! 待つッス、ゼロゼロイチ!!」
「勝手な行動は命令違反だって……ああもう、なんでこんなことになるんだよーッ!!」
ペトラルカのヒステリックな悲鳴が、夜の森にこだました。
しかし彼には悪いが、リンが単独で追ってきてくれるのはこの上なく好都合である。
「敵対者に告ぐ、止まれ。さもなくば容赦無く斬るぞ」
「おうおう、初めから生かす気なんてないクセによ」
夜の森で始まった逃走劇――ぼくは二人を見失わないよう、高度を上げて後をついていった。
「覚えてるか? リン。ガキの頃は、よくこうして鬼ごっこをして遊んだよな」
「……私はリンなどという名前ではない。先程から、誰かと勘違いしているようだが」
ペトラルカとラウラの姿が見えなくなったところで、意外にも、リンはナギの言葉にちゃんと反応を返してみせた。
その答えは、ぼくらが求めていたものとは程遠い内容だったが……。
「じゃあ、なんて呼べばいいんだよ。ゼロゼロイチっていうのは何だ? あいつらは、お前を物として見てるんじゃないか?」
「名前など必要ない。私は剣だ。王の右腕となるべく生み出された剣……それ以上でも、それ以下でもない」
どうして、なんだ。
もう会えないと、絶望していたはずが。
今こうして、異世界にて奇跡的な再会を果たせたというのに。
どうしてリンは……そんな悲しいことばかり言うんだ……!




