第5話 ぼくらの世界(後編)―1
目の前の光景が信じられなかった。
どうして?
なぜ?
沢山の疑問符が生まれては消えていく。
リンは……リンは確かに、ぼくらの前で命を落としたはずなのに。
「どういうことだよ……説明しろよッ、リン!!」
上擦ったナギの声。
しかし、こちらがこれだけ必死に呼びかけているというのに、リンは返事はおろか何のアクションも示さなかった。
「ねぇ……やっぱり、違うんじゃないかな」
あまりの反応の薄さにそう言ってみたが、ナギは間髪入れずに首を横に振った。
「ンなわけねーだろ。今さら見間違うわけあるかよ……あれはどう見てもリンの顔だ」
ストレートのロングヘアーを一本にまとめてはいるものの、確かに顔はリンと瓜二つ……というか本人としか思えないほどによく似ていた。
どことなく、少し大人びた印象もあるが、それは感情を失った無機質な表情をしているからだろう。
「でも、どうしてリンがここに?」
「しらねーよ。こっちが聞きたいくらいだっつの……。……だけど、オレのやることは決まったな」
ナギなら、そう言うだろうと。
そしてぼく自身も、そうするしかないと思っていた。
「こうなったら、聖騎士軍も何も関係ねーよ。オレたちはリンを捕まえて、何があったのか事情を聞きだす。それだけだ」
「そう、だね」
こうしてナギと意見が合うのは、こっちの世界に来てから久しぶり――というか初めてかもしれない。
それだけ、リンの存在は、ぼくらの間では大きなものだったのだ。
「ねえ、もしも」
今にも駆け出しそうなナギの背中に、はやる気持ちを抑えて問いかけた。
「もしもリンが生きてて……ぼくらと同じように、異世界に転移してただけとして……そしたら、その時は――」
「希望的観測の余地はねーよ」
その冷たい言い方……冷や水を浴びせられたような感覚に、ぼくはハッと現実に引き戻されるのだった。
「もしもリンが生きていたとしても。オレたちが何をしでかしたか……忘れたわけじゃねーだろッ!」
ティルヴィングを低く構えて、ナギは正面からリンに斬りかかっていった。
「正気に戻れよ、リンッ!!」
渾身の一振り――しかしリンはまったく動じることなく、わずかに数歩動いただけ。
しかしその最小限のステップで斬撃をかわすと、ナギの懐に飛び込んでいった。
「危ないっ、ナギッ!!」
「大丈夫だ、こんだけ近けりゃ斬られることは――」
リンは黒い剣の柄を、交差するナギの鳩尾に叩き込んだ。
ナギはそのまま後ろへ吹っ飛ばされ、茂みの中へ消えていく。
……そうだった。
もしも本当にリンが生きていたとして。
ぼくらの前に敵として立ちはだかるならば……リンはぼくら三人の誰よりも強い。
「ダメじゃん、ナギ!! どこ行ったのさ!?」
「る、るせェ……。だけど、今ので確信したぜ」
茂みの奥からよろよろとナギが顔を出した。
ティルヴィングを杖代わりに使っているようで、どう見ても足にきているようだが。
果たして、ぼくらに勝ち目はあるのだろうか。




