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第4話 ぼくらの世界(前編)―10

 メラメラと燃える、地面に残った炎。

 爆発の直撃を受けたペトラルカとラウラは、それぞれ仰向けに倒れて気絶していた。


 多少の火傷はあるだろうけど、命に別状まではない……はず?


「これで良かったの……ナギ?」


 もちろん、爆発したのはぼくではない。

 ナギが二人の足元に投げ込んだ火の玉である。


 もし、部隊を撤退させる嘘がうまくいかず、ぼくの身に危険が迫った時は、後ろからナギが攻撃すると予め決めておいたのだ。


「って、ちゃんと二人が気絶したか確認するんだったな」


 当然、そんなことをすればぼくらは一発でお尋ね者だが、ナギは偽名を名乗っているし、一応は大神殿に向かった体になっている。

 ぼくも自爆したことになるので、身元がバレるリスクは少ない――そう考えてのナギの行動だった。


 ぼくはペトラルカとラウラ、二人の顔をぺしぺしと叩いて、気を失っているのをしっかり確認した。

 それを見て、近くの木陰に身を潜めていたナギが姿を現す。


「よくやったぜ、シュー。こんなうまく行くとは思わなかった」


「なんか、聞いちゃいけないことを聞いたみたいだけどね……“黒の剣”、それにゼロゼロイチってなんだろう?」


 ひょっとして王都ルクスパレスでは、何か良からぬことが進行しているのではないだろうか。

 もっとも、それはぼくらの関知すべきことではないのだろうけど……。


「そこに何かが居るみたいなことを言ってたな」


 そう言って、ナギが荷馬車に視線をやると――ぼくらは同時に、あっと声をあげた。

 ナギの放った炎が、荷馬車の幌に引火していたのだ。


 確か、中には誰かが入っていたはず。

 ぼくは慌てて幌の中を覗き込む。


「……あれ?」


 しかし、幌の中はもぬけの殻で、人影一つ見当たらなかった。

 おかしい、ぼくは確かに、鎖で繋がれた足首を目撃したんだ。


「あ――」


 だけど、ぼくはすぐに気がつくことになる。


 隅っこに転がった足枷と鉄球。

 そして、幌の中心には月明かりが差し込んでいる――つまり、中にいた人間は幌の天井を破って脱出したのだ。


「マスターからの応答が無いことを確認。マニュアルに従い、敵対者の排除行動に移ります」


 その声は、ぼくの頭上から聞こえてきた――


「危ねぇ!!」


 ぼくの目の前で交わる、ティルヴィングの薄緑の刃と、黒塗りの刃。

 火花が弾けるほどの激しい衝突だった。


「新たな敵対者を確認――」


 その“女”は空中で身を翻すと、反動を利用して一気にナギとの距離を開ける。

 そして水面に落ちる木の葉のように、物音一つ立てずに着地した。


「なんつー身のこなしだよ、こいつ」


 あまりにも人間離れした動きに、さすがのナギも青ざめた表情をしていた。


「排除します」


 黒の剣という組織名を体現するかのように、女は黒塗りの剣を構え、静かにぼくらに相対した。


 黒装束に身を包んだその姿は、まるでぼくらの世界で言う忍者のようだ。

 長い黒髪を一本にまとめ、頭の上で縛ったその姿は、敵ながら惚れ惚れするような美しさがある。


 だが、何よりもぼくらの目を引いたのは――


「……え? そ、そんなまさか、嘘だろ?」


 滅多に聞いたことがない、ナギの動揺で震えた声。

 ぼくも、あまりの衝撃で言葉が出なかった。


「どうして、どうしてお前が――」


 燃え盛る幌の炎に、女の横顔が照らし出される。


 その顔は、ぼくらの見知った顔であり――ぼくとナギ、そして彼女の三人で、ぼくらはいつもつるんでいたんだ。


 彼女の存在は、ぼくらがこの異世界に来たきっかけと言っても過言ではない――


「どうしてお前がここにいるんだ、リンッ!!」


 ナギの悲痛な叫びは、光を失ったリンの瞳の中へ、無慈悲に吸い込まれていく。

 その時、止まっていた“ぼくらの世界”の歯車が――音を立てて、動き出したような気がしたんだ。

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