第4話 ぼくらの世界(前編)―8
「本当に、これで良かったんスかね?」
荷馬車の前で、馬から降りたラウラは腕組みをしながらペトラルカに問いかけた。
「こんな、無為に血が流れるようなやり方――」
「しょうがないだろ。どの道、今回はゼロゼロイチの実験も含まれていたんだ。戦わなきゃ意味が無いんだよ」
ペトラルカは先程までの卑劣漢の面影は何処へやら、冷静な口調で答えていた。
「でも、投入するならさっさとしないと、制圧完了しちまうッスよ?」
そう言って、ラウラは荷馬車の幌の中に視線をやる。
幕の隙間から、一筋の月明かりで照らされた幌の中には、鎖で繋がれた何者かの足首が見えていた。
「一応、私ら“黒の剣”は、少数精鋭での行動を主眼に置いた隠密部隊なんスから。私らが手を出さなくても、みんながその気になればワーウルフに負けるわけないッス」
「だからだよ」
ペトラルカは眼鏡を押さえながら言った。
燃える炎が反射して、その表情はまったく読めない。
「ゼロゼロイチは正直俺でも扱いきれるか分からない代物だ。今投入すれば、ワーウルフの戦士だけでなく女子供にまで無差別に襲い掛かる危険性がある」
「へっ? ひょっとしてペトラルカちゃん、そんなとこまで考えてたんスか?」
「あのな、一応、この部隊の指揮官は俺なんだぞ? 俺が無策のまま適当に突っ走ってるとでも思ってたのか?」
「そうッス」
「そうってお前ッ!! ……ん? なんだ?」
そこでようやく、二人は自分たちの足元に妙な丸い影があることに気がついたようだった。
やっと話が出来るタイミングが来たと、ぼくはふよふよと高度を落としていく。
「あー、どうも初めまして……じゃないですよね。覚えてます? ぼくのこと」
「どわああああああああああああああああああっ!?」
いきなりぼくが声を掛けたので、ペトラルカは腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
ラウラも、目を丸くしながらぼくを見つめている。
「あんたは、確か昼間に会った生意気そうな男の子にくっついてた、謎のブタッスね。っていうか、喋れるんスか!?」
昼間はこそこそとナギの耳元でしか喋ってなかったから、恐らくただのぬいぐるみとしか認識されていなかったのだろう。
「ラウラ、手、手ぇ」
ペトラルカはラウラに起こしてもらって、何とか立ち上がった。
まだ膝が震えているようだが、こいつ、意外とへたれなのかもしれない。
「実はその彼から伝言がありまして」
「伝言? さっぱり話が読めないが、何のことだよ?」
訝しげにぼくを睨むペトラルカ。
当然の反応だろう、きっと同じ状況だったら、ぼくだって何だこのブタと思うに違いない。
ぼくは先程ナギに教え込まれた文章を、一字一句間違えないよう、気をつけながら話し出した。
「えっとですね。『お前らが探している“森の鍵”は、既にオレが頂いたぜ。一足先に、オレは大森林へと向かわせてもらう。怪盗ヤキニック・ウママーマンより』。だそうなので、今ここで行われている戦いは無益なので、すぐに兵を下げた方がいいとのことでした」




