第1話 これが勇者ですか?―3
「ゴールドという単位はよく分かりませんが……金貨一枚分のお品は出させて頂きますよ」
マスターは困惑しつつもプロらしく、手際よくいちごミルクを作り始めた。
「それと、先程の質問についてですが――」
そして、肝心の質問にマスターが答えようとした、その時である。
「おいおいなんだァ? この辺りじゃ見ない顔じゃねぇか」
「ここはガキが入っていいような場所じゃないんだぜ。さっさと、おうちに帰りな、しょんべんたれが」
先程から酒場の隅で飲んだくれていた二人の男が、ナギの左右の席に座って絡み始めた。
どう見ても素行の悪そうな男たちだったが、マスターはまるでナギを試すように、何も言わないまま黙々といちごミルクを作っている。
ナギはイラついた表情を浮かべながらも、黙って二人を無視した。
もちろん、大の男からしてみれば、年端も行かない少年にすかされて気分がいいはずはがなく、
「おいおい、あんまり大人を舐めてっと痛い目にあうぞッ!」
「いっぺん表に出てみるか。礼儀ってモンを教えてやるよ」
ヒートアップした男の一人が、ナギの胸倉を掴もうとする。
「……ったく、どこにでもロクでもねー大人ってモンはいるんだな」
横から伸びてきたゴツい手を、ナギは何でもないような動作で掴み取ると――
「どわあっ!?」
ガシャアアン、と大きな音を立てて男は丸椅子から転げ落ちた。
手首を捻り体勢を崩して、そのまま突き落とした、ナギの技である。
「この野郎、舐めやがって!!」
激昂したもう一人の男がナギに殴りかかるが、それよりも前にナギは男の座っていた椅子の足を蹴飛ばしていた。
当然、男の拳がナギに当たるよりも先に、男は斜めになって床に転がっていく。
「あーあ。昼間っからガキに絡んですっ転ばされて、酒で全身びっしょびしょになってさ。なっさけなー」
「おやおや……店内での暴力行為はご法度ですよ」
「向こうが先に手を出してきたんだ。正当防衛だって、オレに非はねーよ」
それまで温和だったマスターの目が、鋭くナギを睨んでいたが、ナギは素知らぬ顔をして出されたいちごミルクを一気に飲み干した。
「う、う、うまーーーーーいっ!!」
ナギの張り詰めていた表情が一気に緩んで、途端に幼い顔つきになる。
やれやれ、とマスターは肩をすくめてため息をついた。
ナギの扱いをどうするべきか、困っているようである。
すると、今度は酒場の扉が勢いよく開いて、体格の良い男たちが五人ほど雪崩れ込んできた。
「いたぞ、あの子供だ! ひっ捕らえろ!!」
怒号が響いて、男たちは一斉にナギに向かってくる。
「……まったく、今度は自警団ですか、騒がしい。あなたはいったい何をして来たんですか?」
あきれ返るマスターを尻目に、ナギはひょいと席を立った。
「ごちそーさん。あんたのいちごミルク、絶品だったぜ。また来てもいいか?」
「お断りします」
冷静なマスターの対応に、ナギはチロッと舌を出すのだった。