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第4話 ぼくらの世界(前編)―7

 今にも飛び出して行きそうなガブを押さえて、ナギは家の陰へ身を潜める。


「ど、どうしよう」


 既に木造の家屋のあちこちには火が放たれていて、騒ぎで起きたワーウルフの女性や子供たちが逃げ惑い、人狼の里はパニックに陥っていた。

 ガブは低い唸り声をあげて、一方的な戦闘行為を開始した聖騎士軍を恨めしそうに見ている。


「助けなきゃ、ナギ!」


 居てもたってもいられず、ぼくはそう叫んでいた。

 しかしナギは、動かない。


「このままじゃ、みんな聖騎士軍にやられちゃうって!!」


「助けるって……お前はどっちの味方なんだよ、シュー」


 返ってきたナギの言葉は、意外なほど冷静さに溢れていた。


「え……?」


「今のやり取りだけで、お前は人狼側に感情移入してるみたいだけどさ。これはもしかしたら、人間と人狼の戦いなのかもしれないぜ? つまりお前は、人狼側につくって選択を取るんだな?」


 責めるようなナギの言葉。

 パチパチと、木の燃える音がいやに耳に残って聞こえた。


「そ、そんなつもりで言ったんじゃ――」


「確かに今のお前はブタのぬいぐるみで、種族間の争いとは無縁かもしれないけどさ。そもそも、オレたちがこっちの世界のいざこざに介入するのは良いことなのかよ? お前は、その後もずっと責任を持って行動するつもりか?」


 そう……だ。


 確かに、それはナギの言う通りだった。

 ぼくは元の、“ぼくらの世界”に帰るつもりだったし、異世界での争いには関わらないでいようと考えたばかりだった。


 だけど、どうしてだろうか。


 こうして目の前で苦しんでいる人がいて。

 それなのにぼくは何も出来ないブタの姿のままで。


 それなのに。

 そんなことは、十分は分かっているつもりだったのに。


「助けたい……んだよ」


 その気持ちだけはどうしても抑えられない。

 例えここが“ぼくらの世界”でも、異世界だったとしても、それだけは決して変わらない気持ちだろうから。


「助けたいんだよ、傷つけられてる人たちを! 人狼の里の人たちは、決して、一方的に虐げられていい存在じゃないと思うんだ!」


「じゃあお前は、この世界でも有数の軍事力を保有してると考えられる、王都の連中に喧嘩を売るってのかよ!?」


 ナギの問いに、ぼくは何も答えることが出来なかった。

 ぼくの判断が自分たちの首を絞めることになるって、そんなことは分かっている。


 だけどきっと、それはぼくにとっての間違いじゃないんだ。


「がう、がう!!」


 その時、ガブがナギの腕に噛み付いた。

 いてっ、とナギが手を離した隙に、ガブは戦闘が行われている中心へと自ら駆け寄っていく。


「ガブの気持ちも、もう固まってたみたいだよ」


「……みたい、だな」


 ナギは自分の腕についた歯形を見て、短く嘆息した。


「あいつ、二度もオレの腕を噛みやがった」


「……ぼくも、行くよ。戦うことは出来ないけど、薬を運ぶ手伝いとか、人命救助になりそうなことくらいは出来ると思うから」


 そう言って飛んで行こうとしたぼくを、ナギは後ろからむんずと鷲掴みにした。


「って、何!?」


「あのな、人の話は最後まで聞けっての……。要するにオレは、人狼にも聖騎士軍にも、どっちにも楯突かない方向で行こうって言いたかったわけだ」


 は!?


 ここまで来て、ナギはいったい何を考えているのだろうか。

 ぼくが呆気に取られていると、ナギはぼくの耳元で囁いた。


「つまりは、当初の予定通りってことだよ。“森の鍵”とやら、オレたちで頂いちまおうじゃねぇか」


 …………えっと、つまりそれって。


「か、火事場泥棒……ってことぉ!?」

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