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第4話 ぼくらの世界(前編)―6

「なんか……色々大変なことが起こってたみたいだね」


「がうぅぅ……!」


 ぼくらは民家の陰に隠れて、その一部始終を見ていた。

 ガブは牙を剥き出しにして、完全に聖騎士軍に対して敵意を向けている。


「起こってたみたい、っつーのは?」


「え? ……い、いやいやだから、この里の人たちはずっと聖騎士軍に脅されてたってわけでしょ?」


「そうじゃなくてさ。大変なことっていうのは、これから起こるみたいだぜ?」


 そう、ぼくは未だに分かっていなかったのだ。


 何故、ガブが威嚇の行動を続けているのか。

 何故、ナギがまだ食い入るように彼らの動きを凝視していたのか。


 ペトラルカは、ローブの下に隠していた黒い刀身の短剣を掲げると――


「漆黒の雷よ、来たれッ!!」


 刃の先に集約された魔力が、黒い光となってワーウルフ達に襲い掛かる。


「ヴーツェさん、危ないっ――」


 とっさに飛び出した一人のワーウルフが、雷のように迸る光を一身に受けた。


「ぐああああああああああああああ!!」


 絶叫が響く。

 黒い光が収まると、そのワーウルフの全身には無数の焦げ痕が残っており、そのまま膝から崩れ落ちて倒れた。


 振り返ったヴーツェはその惨状を目の当たりにすると、殺気のこもった目でペトラルカを睨みつける。


「き、貴様……ッ!!」


「んー、実に良い返事……というか良い声だったなァ」


 人差し指で眼鏡をずり上げるペトラルカ。

 レンズの奥の目は蕩けそうに恍惚としていて、満足げに何度も頷いている。


「どうして今回、ここまで武装してきたのか分からないのか? 王は、初めから貴様らの全面降伏以外認める気はないんだよ。明日返事をする、なんて悠長な時間は初めからないんだ」


 月明かりの下、ワーウルフ達の毛並みが一斉に総毛立つのが分かった。

 一方で、ペトラルカが率いる聖騎士軍の面々もそれぞれ武器を取る。


 その中でラウラだけが、不満げな表情をしながら馬を引き、後ろへと下がっていった。


「絶対に許さんぞ、貴様らァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


「血気盛んなワーウルフの戦士は、そう雄叫びをあげながら突然俺たちに襲い掛かってきた。そういう筋書きでいいね」


 森中に響く、ヴーツェの雄叫び。

 相対するペトラルカは、汚らわしい虫でも見るかのように眉間に皺を寄せて、戦いの始まりを合図するように右手を挙げた。


「総員、抵抗するものは片っ端から殲滅しろッ!! 目的はあくまで“森の鍵”を手に入れることだ、事情を知る者だけ数人捕らえれば、残りの生死は問わないッ!!」


 無数の矢と魔法が、一斉にワーウルフたちに飛んでいく。

 こうして、人狼と聖騎士軍の血で血を洗うような戦いが、ぼくらの目の前で始まったのだった。

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