第4話 ぼくらの世界(前編)―5
深い眠りは、身を抉るような殺気によって中断されることになった。
「起きたか、シュー」
どうやら、ナギも同じものを感じ取ったようである。
「うん。たぶん、何処かから見られてるよ」
「それも、これはワーウルフのものじゃねぇな。もっと強い意思のようなものが――」
そう言って、ナギは物置小屋の天井を指差した。
「上だ。恐らくは、どっかの木の上からここを監視されてる」
「がう、がう!」
少し遅れて、ガブも目を覚ましたらしい。
ガブは険しい顔をして、うぅぅと低い唸り声をあげた。
そして、月明かりの差し込む木枠の窓から、外を指差し何かを睨みつけている。
「……ん? オレたちを狙ってるやつは多分、上の方にいるぞ?」
どうやらガブは、ぼくらが感じ取った殺気とは別のものに反応して起きたようである。
何故、それが分かったかというと、人狼の里の入り口には、既に大勢のワーウルフと複数の光源が見えたからだった。
***
普段の耳だけ獣の状態から、全身が毛で覆われた戦闘態勢へと姿を変え、ヴーツェはワーウルフたちの先頭に立っていた。
「だから、何度も言っているだろうがッ! この先は人間は立ち入ってはならぬ、神聖な領域なのだ! 何度来られようと、ここを通すつもりはない!!」
対して、人間側の先頭にいるのは、昼間に会ったペトラルカである。
「何度も言っているっていうのは、こっちのセリフなんだよなぁ。エルシール大森林は、ルクスパレスの領地の一部なんだ。王の勅命を受けて来てるんだから、道を開けるのは国民の義務だよ?」
「そんな、人間が勝手に作ったルールなど知ったこっちゃあない!! 聞き分けのない王にもう一度伝えてくれ。この未開の地は神々が棲む大地なのだ! そこには、我々を含め何人たりとも足を踏み入れてはならないのだと!」
二人の主張は相容れることなく、話し合いはずっと平行線のままのようだった。
「まーたそのセリフか? いい加減、耳にタコが出来るっていうか、聞き飽きたよ」
「ペトラルカちゃん、今回はもっと、大事な話があるッスよね?」
苛立ち紛れに頭を掻き毟るペトラルカに、横からラウラが言った。
ペトラルカは思い出したようにポンと手を叩くと、懐から一通の書簡を取り出し、わざとらしく咳払いをした。
「そうそう、これは王から伝えてくれって言われて持ってきてるんだけどさ。お前らが三度に渡る俺らの交渉に応じなかった時は、武力による解決も視野に入れる」
その瞬間、ワーウルフたちに一斉にどよめきがはしる。
「な、なんだと? 人間の王は、本当にそんなことを言っているのか?」
「本当だって。ほら、これを見て確かめてみろって」
ヴーツェは渡された書簡に目を落とすと、表情を一変させて青ざめる。
「わ、分かった。俺もすぐには返答できないが、一日だけ時間をくれ。長老に話して、正式に俺たちの対応を決めさせてもらう」
「良い返事を待ってるよ」
書簡をしまったヴーツェは、覚束ない足取りでその場を後にした。
若いワーウルフの連中はヴーツェを取り囲み、どうするのかと慌てた様子で問いただしている。




