第4話 ぼくらの世界(前編)―4
「ぶっちゃけるとさ、単純に興味があったんだ」
ナギの告白はそこから始まった。
エルシール大森林の奥には“エルシール大神殿”と呼ばれる人の踏み入ることが出来ない秘境があること。
そしてそこには、人智を超えた力を持つ魔力の源があるということ。
「だからオレは、いっぺんそれを見てみたかったんだよ」
何のために?
聞くまでもないことだったが、ナギの答えはぼくの予想した通りのものだった。
「世界征服」
どうして、そんな目的があったのにぼくに教えてくれなかったのか。
ナギはその問いに対して、当たり前のように答える。
「そのためにガブを利用しようとするなんてさ。お前、絶対反対しただろ」
確かに、ナギの言う通りかもしれない。
人狼の里は、エルシール大神殿に続く道の“門番”としての役割があるらしい。
そして、その門をくぐるために、ガブを帰すことで恩を売ろうとしていたなんて。
「まあ、唯一の誤算だったのは――」
ヴーツェは言った。
村に行方不明の子供はおらず、恐らくは里の外に出た人狼の子なのだろうと。
ぼくの旅の目的は、あくまでガブを元の家に帰すことだったわけで。
その手がかりが、ここまで来てぷっつりと途絶えてしまったわけだ。
もっとも、ナギの目論見はまったく別のところにあったのだが。
「ま、今日はさっさと寝ようぜ。せっかく、好意という名の監視体制の中、こうして空いてる物置小屋を貸してもらえたんだからな」
虫と木々のざわめきだけが聞こえる暗闇の中。
ナギはそう言って目をつぶったのだった。
ヴーツェは多くを語らなかったが、人間の侵入を警戒しているのは明らかだった。
そして恐らくその原因は……昼間に会った、王都ルクスパレスの聖騎士軍だろう。
ようやくぼくにも、色々なことが繋がって見えてきたけど……そういえば、あの聖騎士軍の人たちはどうしたのだろうか?
結局、横道から入ったぼくらの方が早く人狼の里に辿り着いたわけだが、彼らは彼らで別のルートを行ったのだろうか?
それとも……そもそもの狙いが人狼の里ではなく、直接エルシール大森林に向かったのか。
……まあ、いいか。
所詮はぼくらに関係ない、異世界のことだ。
ナギは世界征服をするつもりだけど、ぼくは元の世界に帰る方法が見つかればそれでいい。
なんて言ったら、ナギに怒られるかもしれないけど。
とにかく、ぼくはこの世界の事情に首を突っ込むつもりはなかった。
考え事をしているうちに、物置小屋に微かな寝息が二つ、聞こえることに気がつく。
もう、ナギもガブも眠ってしまったようである。
そうだよな、ぼくは空を飛んで楽をしているわけだけど、二人は日中歩き詰めで、それも足場が悪いところを進んできたんだ。
今日くらい、深いことを考えるのは止めて、さっさとぼくも寝ることにしよう。
そうして、ぼくは詰まれた藁の上に身を横たえる。
不思議な気分だ。
異世界だというのに、森の中に作られた木の家の臭いは、どこかで嗅いだことがあるような懐かしいものの気がした。




