第4話 ぼくらの世界(前編)―3
「ごめんッスよ、少年少女たち。ペトラルカちゃんは昔から気難しい子で、ちょっと人に対して当たりが強いんス。でも、悪いヤツじゃないんで大目に見て欲しいッス」
「いや何の話をしてるんだ!? 俺はそいつらを追い払えって言っただろう!?」
ペトラルカとラウラは、共にぼくらよりやや年上――十代後半か二十代前半の年齢に見えた。
いったい彼らは街道の道端で何をしているのだろうか?
ナギが動こうとしないのでその場に待機していると、茂みの奥から二人よりずっと年上の男が姿を現した。
「部隊長、報告です! こちらの経路ならば、荷馬車ごと進行することが可能な模様です!」
「うむ、じゃあ早速行こうか。王も首を長くして吉報を待っているだろうからな」
どうやらこの一隊は、ペトラルカが率いているものらしい。
それに、先程の“ルクスパレス聖騎士軍”という単語と、ペトラルカの放った王の一言。
ぼくは思いついた答えを、ナギの耳元で囁いた。
「ねぇナギ。きっとこの人たちってさ――」
「あの紋章は、王都ルクスパレスから派遣されてきた正規の部隊だろう。事を構えるのは良くなさそうだな」
って、ナギは分かってたんかい!
表情一つ変えずに言ったナギに対し、ぼくはずっこけそうになった。
どうも最近、ナギとの間の情報格差が激しいような。
いったいナギは、どこで情報を収集しているのだろうか?
「ん? まだいたのか貴様ら」
部下の報告を受けた後、ペトラルカは改めてぼくらを見下して言った。
「いいか、ここはしばらくの間は通行禁止になるぞ。悪いことは言わないから、さっさと迂回路を探すんだな」
「迂回路ったって、ここは街道で一本道だし、一般人に危険な野道を行かせるつもりですか?」
煽っているのかいないのか、丁寧な口調だがナギの挑発的な言い分だった。
だが、ペトラルカはそれに応じることはなくフンと鼻で笑うだけだ。
「それなら心配には及ばん。我らの目的が達成されれば、貴様のような一般人でも十分な恩恵を受けられるからな」
「ちょ、ちょっとペトラルカちゃん、あんまり余計なことを言うのは止めるッスよ!」
ぷっと頬を膨らませて、ラウラはペトラルカを咎めるように言った。
「一般人にも……?」
ナギは眉を顰めて、ペトラルカの言葉の真意を測っているようである。
「と、とにかくごめんッスよ。三十分もしたら私達も移動するッスから。ちょっとだけ待ってて欲しいッス」
申し訳なさそうに言うラウラ。
こっちは人が良さそうで、まだ話が通じそうな雰囲気がある。
「行くぞ」
ナギはそこで話を切り上げて、来た道を引き返し始めた。
「行くって……どこに?」
「いいから。今は何も話すな」
険しい表情でどんどん先を行くナギ。
ぼくとガブは、黙ってその背中についていく。
「面白いことになるかもな」
「えっ?」
ある程度距離が離れたところで、唐突にナギが口を開いた。
「あそこ、人狼の里に最短で行くための野道なんだよな。ひょっとすると……あいつらと同じ目的地かもしれねーぞ」
仮にそうだとしても、王都の聖騎士軍とやらが、何の目的で人狼の里を目指しているのだろうか。
あまり良い予感はしないけど……ぼくは不安になって、鼻歌交じりに隣に歩くガブを見るのだった。




