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第4話 ぼくらの世界(前編)―2

「いやあ、すまなかった。無礼を許してくれ」


 そう言って右手を差し出してきたのは、背の高い人狼族の青年だ。

 先程の部隊を率いていた人狼族の戦士長らしく、彼はヴーツェとぼくらに名乗った。


 らしく、と推定系なのは、ヴーツェは今は人の姿に戻っていて、先程のワーウルフの姿とは似ても似つかなかったからである。

 ただ、刈り上げた灰色の髪を、襟足だけ伸ばして紐で縛ってあるのは、なんとなくワーウルフの毛並みを連想させるようだった。


「無礼どころか殺されかけたけどな……こっちは厚意でこの子を届けにきたってのに」


 そっぽを向いたナギがぼそっと呟くと、ヴーツェはあからさまにむっとして、握り締めた右手をぷるぷると震わせている。


「ごめんで済んだら警察は要らないんだけどな……人間だったらお詫びの一つでも寄越すところだけど……この人たちワーウルフだしな……」


「ちょ、ちょっとナギ! 何挑発してるの!? ヴーツェさん、かなり怒ってるよ!?」


 耳元でナギに忠告をしたが、まったく聞く耳持たずの様子である。

 ヴーツェはやがて呆れたようにため息をつくと、面倒くさそうに口を開いた。


「これだから俗世界の者を招き入れるのは嫌なのだ。いったい貴様、何が目的だ?」


「人狼の里の奥にあるもの。それに興味がある」


 ナギが切り出すと、ハッとヴーツェの目の色が変わった。


「え、ちょっと何の話……ねぇ、ナギ、何でそんなこと聞いているの?」


 まったく話が見えないので聞いてみたが、ナギはヴーツェと睨み合って、ぼくの相手などしていられなさそうだった。


 ガブもポカンとして、二人の間の緊迫した空気に戸惑っている。

 人狼の里の奥にあるもの……というと、ここに来るまでの道中での出来事と、関係があるのだろうか?



***



 人狼の里の情報を集めながら街道を進んでいたぼくらは、その途中で武装した集団と出くわした。


 といっても、それは今まで会って来たような山賊のような集団ではない。

 手入れされた武具と馬を持つ、何かの公的な組織と思われる、統率の取れた集団だった。


「おい貴様ら、ここは一時通行止めだ! 迂回をして進め!!」


 横を通ろうとしたぼくらに、その男は馬上からいきなり怒鳴りつけてきた。


 むっとしたナギが見上げると、丸眼鏡を掛けた黒髪の男が苛立ったように髪を掻き毟っている。

 元々くせっけのあるくしゃくしゃの髪が、さらにボサボサになっていた。


「通行止め? ここは街道だぞ、通って何が悪いんだよ」


「あーもう、田舎者はこれだからッ!! だから今この道は、我らルクスパレス聖騎士軍が使用中なのだッ!! これを見ても分からないかなァ!?」


 ナギの反論に対し、男は首から提げていたペンダントを手にして、ぼくらに見せ付けてきた。

 そこには幾何学的な模様が彫られていて、男の身分を証明するもののようである。


 が、もちろんぼくはその模様を初めて見るので、いったい何のことなのかさっぱり分からなかった。


「え!? 分からない!? マジでお前ら分からないか!? いったいどういう教育を受けてきたんだ!?」


「まあまあペトラルカちゃん。いきなり大声を出したら一般人はドン引きするッスよ。もうちょっと優しく言ってあげないと」


 ボサボサ頭の眼鏡の男――ペトラルカを止めようとしたのは、同じように馬にまたがり、首からペンダントを提げている金髪の女である。


「なにィ!? じゃあお前がこいつらを追い払ってくれよ、ラウラ! あと何度も言うけどちゃん付けは止めろ!!」


 黒のローブを身に纏った魔導士風の身なりのペトラルカに対し、ラウラと呼ばれた女は金属鎧に身を包んでいて、背中には異様に巨大な剣を背負っていた。

 物々しい装備の数々だが、頭につけた赤いヘアバンドだけが、妙に少女チックな趣味でミスマッチである。

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