第3話 伝説の剣と伝説の山賊―13
獣耳の少女が、名残惜しそうに町を振り返っている。
「何もたもたしてんだガキ、行くぞ」
ナギはその手を引っ張ると、街道の先へ進むよう促した。
日は完全に落ちていて、空にはまた赤と青、二つの月が昇っていた。
時刻は、およそ夜の九時半くらいだろう。
ぼくらは作戦通りに、デンスとランドを置き去りにしてエルウーンの町を出発することに成功したのだ。
「がう……がう」
ナギに進むよう言われても、少女は何かを言いたげに、ナギと、エルウーンの方角を交互に指差している。
もしかして、デンスとランドを置いていったことを気にしているのだろうか?
「早くしねーと、あいつらに見つかったら、ここで出発した意味が無くなっちまう」
「う……がう」
そう言われても、少女はまだ旅立つことに対して不満げだ。
フードの上からでも、獣耳がしおしおに垂れているのがはっきりと分かる。
ナギははぁとため息をつくと、もう一度少女の手を引っ張った。
「あーもう! ガウガウガウガウうっせーな! 行くぞガブ!!」
突然怒鳴られて、少女は驚いたように硬直する。
「がう…………がぶ?」
だが、その反応は、怒鳴られたショックというよりも――
「そうだよ。とりあえずのお前の名前だ。前にオレをガブっと噛んだからガブ。それで十分だろ」
「がぶ……がぶ? がぶ?」
自分に名前がついたことに対して、驚きを隠しきれない様子だった。
獣耳の少女――ガブは何度か自分の名前を繰り返し呼んだ後、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ね始める。
「わ、すごいよナギ! ガブ、とっても喜んでるみたい」
「あっそ。そいつは良かったな」
せっかく褒めたつもりなのに、恥ずかしいのか、ナギはそっぽを向いて先を進んでしまう。
きっとナギだって、ガブのことは嫌いじゃないはずなのに……天邪鬼なやつである。
「ガブ! ガブ、ガブっ!」
名前をもらって大喜びしているガブの横を、ぼくは添うようにゆっくりと飛んでいった。
デンスとランドのことは名残惜しいけど、きっとこれからもこうして、出会いを別れを繰り返しながらぼくらは旅を続けるのだろう。
そう考えると、直に来るだろうガブとの別れも、お互いに良い思い出になればいいと。
ガブの無邪気な横顔を見ると、そう願わずにはいられないのだった。




