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第1話 これが勇者ですか?―2

 ――少し、話を遡って。

 事の始まりは、こんなことからだった。


「あ、あ、あぁ……!」


 顎が外れそうな勢いで口を開けた老婆。

 ぷるぷると震えるその指先は、銀髪の少年を指していた。


「お、タンスの中から十ゴールドはっけーん。こっちの壷にはメダルがあるんじゃね? 割っていい? なぁばあちゃん割っていいか?」


「ばっかもーん!! それは先祖代々伝わる家宝の壷じゃわい!!」


 怒りで顔を真っ赤にして、齢九十歳は超えてそうな老婆はぶんぶんと杖を振り回した。

 少年はゲッと苦みばしった顔をして、おじゃましましたーと乱暴に家から出て行く。


 勢いですっ転んだ老婆の口から、入れ歯がコロコロと転がっていった。


「んだよ、そんなに怒ることないじゃん……。勇者なんだから、探索するのくらい当たり前だろ」


 悪びれることもなく、チロッと舌を出してみせる少年。

 まったく反省の色を見せることもなく、少年は次の探索先はどこがいいだろうと、村内の物色を始めていた。



 彼の名は“ナギ”――まだ名も知らぬのどかな農村に着くなり、先程のような悪行を重ねているナギだが、一応、これでも勇者である。

 その証拠は、勇者のみが持つことを許されるという剣、“ティルヴィング”。

 それを腰に携えているからだが……無論、そんなことを村人らが知る由もない。


「つかさー、こっちだってロクすっぽ準備も出来ないまま勇者になってんだからさ……ちょっとくらい協力しろっつーんだよ。それが一般市民のお役目だろ」


 そんな文句をぶーたれつつ、ナギはある一軒の建物の前で立ち止まった。


「酒場……か。まあ、情報収集の定番っていったらここだよな」


 ナギは躊躇することなく酒場の両開きの扉を押していく。


 傍から見れば妙な光景だろう。

 どう見ても未成年の少年が、堂々たる佇まいで、のしのしと酒場のカウンターまで歩いていくのだ。


 当然、昼間から酒場に入り浸っていた飲んだくれ達の好奇の目が、一斉にナギに突き刺さった。


「……これはこれは、ずいぶんと可愛らしいお客さんですな」


 カウンターに肘をついて座るナギ。

 口髭を蓄えたナイスミドルのマスターが、目の前に座ったナギを見るなりそう言った。


 確かに、その性格を知らなければ――十五歳の割りにやや童顔の顔つきのナギは、美少年と言ってもいいかもしれない。


 色白の肌に、切れ長でいつも涼しげな碧色の目。

 肩の辺りまで伸びた銀髪は、貴族の生まれといっても信じられそうなほどに艶やかで、高貴さに満ちている。


「あのさー、オレ、実入りがよくてサクッと出来るような仕事を探してるんだけど。そういう、金になりそうな美味しい話ない?」


 ぶしつけなナギの質問に、マスターは何も答えず空のグラスを磨いていた。


「いいですが、迷子のおぼっちゃん。郷に入っては郷に従えという言葉がありまして、こういう場ではモノの頼み方というものがあるのですよ」


「ふーん。どこにでもおんなじような言葉はあるんだな。ほら、これ」


 そう言って、ナギはピンと親指で金貨をはねた。

 ピーンと甲高い音が立て、宙を舞った金貨は裏面でカウンターに着地する。


 もちろんそれは、先程のおばあさん宅で拾った(パクった?)十ゴールドだった。


「ミルクをくれ」


 腕を組み、ふんぞり返ってナギは言った。


「ミルク? ……それにしては、少々大きな額ですが」


「いちごだ。ありったけのいちごを、すり潰してミルクの中に入れてくれ。そのための十ゴールドだ」


 まさかのいちごミルクの要求に、マスターはうーむ? と首を傾げながらも頷く。

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