第3話 伝説の剣と伝説の山賊―10
「夜になったら二人を置いて出て行くぞ」
ええっ、と声を出しそうになったところを、ナギにぎゅっと口を押さえつけられる。
宿屋に着いてすぐ、ランドが便所に行くと言って部屋から出て行った際だ。
「もごもごもごもごもご」
「本当だったら、部屋割りもオレとお前と、あのガキに出来れば良かったんだけどな。さすがに男女を混ぜると怪しまれるか」
「もごもごもごもごもご」
「ランドの眠りに落ちるスピードは昨日の段階で確認してるからな。うまいこと部屋から抜け出して、女子部屋からガキを連れ出せばいい。最悪デンスに見つかっても、あいつなら簡単に言いくるめられるだろ」
「もごもごもごもごもご」
言いたいことが沢山あるのに、口を塞がれっぱなしで何も言い返せない。
どうして、どうしてナギはいつもそうなんだ。
「そのために昼寝もたっぷりしておいたからな。まあ、お前が寝落ちしてたらカバンに詰め込んで持ってってやるよ。作戦会議は以上だ、そろそろランドが戻ってくる、この話は絶対にするなよ」
「ぷはぁっ! ちょ、ちょっと待ってよ!」
ようやく口を押さえていた手が離れたので、ぼくはすぐに抗議の声をあげた。
「せっかく二人とも、ぼくらに協力してくれるって言ってるんだからさ。ちょっとは信用というか、助けてもらってもいいんじゃない!?」
「……は? なんだそれ、お前、あいつらと何か話したのか?」
ぎくっ。
鋭いナギは、すぐにぼくの態度に違和感を持ったのだろう。
だけど、ナギはそれ以上追及しようとはしなかった。
「ま、お前は“良いヤツ”だからな。そういうところがあるから、オレともやっていけるんだろ」
「ど、どういう意味だよ」
「あいにく、オレは“良いヤツ”じゃないってことだ。いいか? ランドがオレ達について来る理由は相変わらず読めないままだし、デンスだって一緒にいたら騒々しいことこの上ないだろ」
ランドはともかく、デンスはそんな理由かいっ。
「とにかく、これは決定事項なんだ。オレはお前とだから一緒に旅をしたいんだよ。あのガキだって、人狼の里に連れてけばそこでお別れなんだからな」
ひねくれてはいるものの、これはナギなりの、ぼくに対しての褒め言葉であることには違いなかった。
そういう部分があるからこそ、ぼくもナギを嫌いになれないでいる。
だけど……今は、そういう独りよがりなことを言っていられる場合じゃないと思うんだ。
「ナギの言ってること、分かるけどさ……やっぱりおかしいよ」
「は? 何がおかしいんだよ」
「ぼくとの二人旅がいいなら、あの女の子を連れていく必要だってなかったし。今だって、事情を説明してあの子をデンスとランドに任せてしまってもいいんだ」
「……それは、乗りかかった船ってヤツだよ。一度決めたことを覆すのは、オレらしくないしな」
「気にしてるんでしょ? リンのこと。…………大人の力なんか借りない、自分の力で世界を支配してやるって、あの時ナギは言ってたもんね」
ぼくが言うと、ナギは一瞬だけ、これまで見せたことがなかったような寂しげな表情を、本当に一瞬だけ……ぼくの前で晒した。
「そこまで分かってるなら……理解してくれよ。これはオレたちの旅路なんだって。オレたちだけで成し遂げなきゃ……意味が無いんだ」
初めてだった。
この異世界に来てから、ぼくは初めてナギの本音に触れたような気がして……それ以上、ナギを止める言葉をかけることが出来なかった。




