第3話 伝説の剣と伝説の山賊―8
「いいよ、そんなの興味ねーし。それより、宿はどこだ? とりあえず今日は休みたいんだが」
その対応に、え、とお姉さんの空気が凍りついた。
デンスとランドも、手を振り上げたままの姿勢で固まっている。
「ちょ、挑戦しないのですか!? こんなにお得なキャンペーン中なのにっ」
「いやもう、キャンペーンとか言っちゃってるし。それに、一つだけ文句を言わせてもらうとな」
ナギはぐいっとお姉さんに迫った。
その気迫に、お姉さんは脅えた表情をして後ずさる。
「オレたちは四人組じゃねぇ。五人だ」
そう言ってナギが親指で示したのは、ぼくのことだった。
もしかして、ぼくを認識しなかったお姉さんに、腹を立ててくれたのだろうか。
「あ、ありがとうナギ……! ……でもきっとぼくは勇者チャレンジに参加できないし、そもそもこの丸っこい手足で剣を掴めるかどうか」
「いや真面目か!? とにかく、オレたちには遊んでる時間はないんだ。先を急ぐぞ」
振り返ることもせず、ナギはずんずんと先に進んでいく。
そこまでして旅を急ぐ理由。
ぼくは、ここに来るまでの乗合馬車での一コマを思い出していた。
***
ようやく乗せてもらった馬車の中で、ナギはすーすーと安らかな寝息を立てていた。
ナギは夜が明けるまで、ずっとランドの見張りをしていたのだ。
確かにランドには魔物に襲われかけていたところを助けてもらったが、だからといって信用する理由にはならない。
次の町に着いて別れるまではちゃんと見晴らせてもらうと、堂々と宣言をした上で寝ずの番をしていたのである。
ちなみにぼくも途中までは一緒に見張りをしていたのだが、ランドは横になって二分くらいの超スピードででっかい鼾をかいていた。
「ったく、ホントに人のことを信用しねぇ坊主だな。お前さんも、一緒に居て大変じゃねぇのか?」
馬車の中には他の客もいるし、デンスや獣耳の少女も起きているということで、今はその警戒を解いて寝てしまったようだが。
ランドに言われた通り、ナギには少し人間不信に近い部分もあるのかもしれない。
「まあでも、あなたの怪しさは出会った時点からぶっちぎりなので、仕方ないことだと思いますが」
「……な、なんだとこのブタ!? 意外と言うじゃねぇか!」
ランドがぼくを掴もうとしてきたので、ぼくはひょいと高度を上げて避ける。
「ちょっと、私たちが乗ったせいでぎゅうぎゅうなんですから、馬車の中で暴れないでください!」
「ああん!? このブタが悪いんだよ! 俺に喧嘩を売りやがって!」
ランドは物凄い形相でぼくを下から睨みつけていた。
おお怖い、やっぱり山賊というのは簡単には信用できない人種である。
「……ったく、最近のガキってのは口の利き方も習ってねぇんだな」
ランドはぼくが降りてこないのを見ると、両腕を組んで長椅子の真ん中に座った。
「ちょ、もう少し詰めて座れませんの!? レディの体に肘が当たってますわよ!」
「んなこと知るか、俺は図体がでかいんだ。これくらい幅を取るのは当然の権利なんだよ、っと」
ランドは一方的な理屈で押し通すと、隣ですっかり眠りこけているナギに目を落とす。
その口元が、一瞬だけ緩んだような気がした。
「なぁ、ところでお前らはどこに行こうとしてるんだ?」
唐突にランドに質問され、ぼくは返答に困った。
別に、ナギから緘口令を敷かれているわけじゃない。
本当に、行き先なんて決めていなかったからだ。




