第3話 伝説の剣と伝説の山賊―6
ナギの言うとおりである。
ブタのぬいぐるみに転生したぼくには、視覚と聴覚はあれと、嗅覚や触覚は存在していないのだ。
だからデンスに引っ張られた時も、その異常を視界の歪みでしか感じられなかった。
便利なのか不便なのかよく分からない体だけど、まさかこんな形で利用されるとは。
「いいか! ちょっとでもおかしいなと思ったらすぐに声をかけるんだぞ! オレは十メートルくらい離れたところで待機してるからな!」
え、ええ……さすがにそれは離れすぎでは……。
しかし、ぼくが抗議の声をあげる隙を与えることなく、ナギは実に素早い身のこなしで茂みの外に出て行くのだった。
「お、悪いなブタさん! お前さんが付き合ってくれるのか? ちょっとだけ待っててくれな、すぐ済ませるから」
茂みの奥からは、あっけらかんとしたランドの声が聞こえてくる。
情けないことこの上ない状態なのに、この潔さはある意味男らしいのかもしれない。
「み、見てないですから、早くしてください。ぼくとしても、その……あまり付き合いたいことではありませんから」
悪いねぇ、とランドの申し訳なさそうな声がして、茂みの奥がガサガサと揺れ始めた。
ほ、本当にここで待ってなきゃいけないのか。
これは何て罰ゲーム、いや拷問か。
だがしかし……いくら待っても、茂みの奥のガサゴソとした揺れは収まりそうにない。
「あ、あの、まだ終わらないんですか?」
「ちょっと待ってくれよ、ズボンを脱ぐのが難しいんだ! なにせ、手が使えねぇんだからな!」
はぁそうですか、としか言いようがない……全然聞きたくない情報である。
結局、ぼくが見張りを始めて五分くらいは経過しただろうか。
「なあシュー、まだ終わんねぇのかよ?」
苛立ったナギの声がした。
なんでぼくが、そんな責められるような口調で言われなくちゃいけないんだ。
「うん、なんか、ズボンを脱ぐのが大変なんだって」
「…………は? それでこんな時間がかかってんのか?」
強い口調でナギは言う。
だから、そんなことぼくに聞かないでって。
「だって、先に小をした時はすぐに終わっただろ。それでこんなに時間がかかるのは、有り得ないんじゃないのか?」
焦ったようなナギの声の響き。
いつの間にか、茂みの奥のガサゴソ音は無くなっていた。
「あっ……まさか……っ!」
慌てて茂みの奥を覗きに行く。
後ろからナギもすぐに追いついて、同時に奥に踏み込むことになった。
「ランド、てめぇ……っ!!」
茂みの奥では、自由になったランドがコキコキと肩の骨を鳴らしていた。
その足元には、折れた枝と千切れた縄の先端が落ちている。
折った枝に縄を擦り付けることにより、縄を切断したようだ。




