第3話 伝説の剣と伝説の山賊―4
じょぼじょぼと威勢の良い音がする。
ぼくもあまり汚いシーンを見たくないので、木々の隙間から見える二つの月を眺めることにした。
――この世界には赤い月と青い月、二つの月が存在していた。
その理由を旅の途中で人に質問したこともあるのだが、あるものはある、と当然のように返されただけである。
まあそれもそうだろう、ぼくだって、月や太陽が何故存在するのかと聞かれても、昔からあるものはあるとしか答えられない。
やはり、この異世界とぼくらの住む世界の常識は違うのだと、そう痛感させられた出来事だった。
そんなことを思い返しているうちに、滝のような水音も聞こえなくなったようである。
「なぁ坊主」
「なんだよ。あと俺は坊主じゃねー」
「じゃあ名前くらい教えてくれたっていいじゃねぇか」
「嫌だね。せいぜい勇者様とでも呼んでくれ」
「じゃあ勇者様。ひとつだけ頼みがあるんだが」
ごっほん、と大きな咳払いをしてから、ランドは遠慮がちに言った。
「…………クソがしたい」
「はあああ!? そのくらい我慢しろよ!? 一応お前、捕虜の身なんだぞ!?」
キレかけのナギに対して、木陰のランドは消え入りそうな声で話し続けた。
「そんなこと言われても……生理現象は仕方ねぇべ。それこそ漏らせっていうのか?」
「ちょっとの間くらい我慢できるだろ。オレだって、そんなとこまで付き合ってやるつもりはねーよ」
「頼む!! 一生のお願いだ!! クソがしたいっ! したいのだッ!!」
そんなことで一生のお願いを使うのかと思ったが、本人にとっては切実な問題なのかもしれない。
しかし、どう見ても四十代は超えている大人の男が、クソクソ連呼をしているところを見るのは、なんというかこう、背中に冷たいものがはしる感覚がある。
「あーもう、勝手にしろよ! ただし、妙な動きをしたらすぐにぶった斬るからな!!」
そう言って、ナギはベルトに繋いでいた縄の先をぼくの体にくくりつけた。
……って、えええええええええええええっ!?
「ちょっと、何してんのナギ!?」
「お前が見ておいてくれよ。んで、なんか変な動きがあったらすぐに知らせてくれ。さすがにオレも、こんなむさいオッサンの大に付き合いたくはない」
「ぼくはいいの!?」
「だってお前、嗅覚はないんだろ?」
痛いところを突かれて、ぼくはうっと呻き声をあげた。




