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第1話 これが勇者ですか?―1

 少年の力は“異常”だった。


 室内に渦巻く炎。

 燃え朽ちた家財が灰となって降り注ぐ。


 この世の終わりのような絶望的な光景の中、銀髪の少年は鼻歌を口ずさんでいた。


「ふんふ~ん、お宝おったから~! なぁなぁ、村の人たちから巻き上げた財産っていうのは、どこにあるんだ?」


 少年は大の字に倒れている大男に対して聞いているが、返事はない。

 それもそのはずで、その髭もじゃの大男はつい先程――年齢も体重も半分以下であろう少年によって、“のされて”しまったのだ。


「おい、死んだふりかよっ!? いい加減に吐かないと、本当にこのまま焼死しちまうぞッ!!」


 少年は容赦なく大男のわき腹に蹴りを入れる。

 大男はごぼっと血の塊を吐くと、ぜぇぜぇと荒い息をしながら言った。


「も、もう本当に勘弁してくれ……金目のモンなら、もうお前さんに渡したもので全部だよ」


 確かに少年は、風呂敷いっぱいに金貨や宝石などを溜め込んで担いでいた。

 ちょっとした宝石店でも開けるのではないかという量だ。


 しかし、その程度ではまったく満足には至らなかったらしい。


「ハァ!? こんなんで全部とか……お前それでも山賊ゥ!? やる気あんのかよ!!」


「がはっ!? ちょ、待って、もう蹴らないで、本当に死ぬ……。全部っていうか、お前さんが火を放ったから、あらかた燃えちまったんじゃねぇか!?」


「ほーん……この期に及んで人のせいにするのか? いいか? お前は悪人だ、紛うことなく悪なんだ」


 少年はしゃがみ込んで大男の髪を鷲掴みにすると、ぐいと強引に頭を持ち上げる。


「そして、オレは勇者で、完膚なきまでの正義ってわけ」


 あまりに一方的な理論に、大男は何も言い返すことが出来なかった。


「分かるか――? てめぇにゃ元々人権なんてねぇんだよ!!」


 開き切った瞳孔。

 自らが正義だと信じる目は、あまりにも真っ直ぐすぎて逆に歪んでいるような――そんな光を宿していた。


「いいか、今すぐこの二倍以上の金目のモンをこの屋敷からかき集めろ!! こんなんじゃあ、八割ハネてもまだオレの働きに対しては大赤字なんだよッ!! 体がイテェとかナマ言ってんじゃねぇぞゴラ!! テメェのタマで払ってもいいんだぞッ!!」


 大男はひぃぃと全身を震わせながら、満身創痍の体を引きずって屋敷の奥へと姿を消していく。

 少年は、その後ろ姿を見ながら満足そうに頷くのだった。


「まぁ……オレもそろそろ出ないとやばいかなー?」


 炎の勢いが増していく中、少年はそう呟くと、すたこらさっさと屋敷の玄関へと踵を返すのだった。

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