第2話 勇者の掟―11
力を使い果たしたのか、デンスは深く息を吐くと、そのまま気を失ったようだった。
蜘蛛は痛みで怒り狂ったのか、黒い靄を噴出させながら、デンスに覆い被さろうとする。
「いや、お前はよくやったぜ、デンス」
その前には、ナギが割り込んで入ってきていた。
ナギはあくまで剣を抜かず、突然しゃがみ込むと、両手を大地につけた。
「こいつの弱点を教えてくれたんだからなッ!! 切り裂け、大地よッ!!」
ナギが触れている地面に、ピシッと亀裂が入ったかと思うと。
大きく隆起した大地が、まるで槍のように鋭く尖って、蜘蛛の腹部を貫いた。
「まだまだだッ、飛んでけえええええええええええええええええええッ!!」
大地の槍は一メートル、二メートルとその高さを増していき、十メートル近くまで空に向かって伸びていった。
腹を切り裂かれた蜘蛛は、まるで百舌の早贄のように、串刺しのまま空中へと連れて行かれる。
「…………終わったか」
しばしの静寂。
蜘蛛は苦しげに足をわしゃわしゃと動かしていたが、やがて痙攣を始めると完全に動かなくなってしまった。
大地の槍をつたう黒い血が、地面に滴る度に黒い靄となって蒸発している。
見上げた空には、太陽が眩しいほどに光り輝いていた。
***
――時を同じくして。
街道沿いの大木の枝の上で、一連の戦いを見届けている者がいた。
その男は筋骨隆々とした見事な体躯をしており、顔の輪郭を覆うように、黒い髭が生えている。
まるで雄の獅子のような出で立ちだが、その荒々しい顔つきは、獅子ではなく“猛牛”の言葉がふさわしいように思えた。
「がっはっは……!! あいつが話に聞いていた勇者様か。おもしれぇ」
男はそう言うと、ナギに背を向け森の中に帰っていこうとする。
「たーっぷり可愛がってやるからな、覚悟しておけよ」
「あのー、ナギに何か御用でしょうか?」
ぼくが耳元で声を掛けると、男は死ぬほど驚いたようである。
バランスを崩し、太い腕をぶんぶん振り回して、なんとかバランスを取り戻そうとしたものの、やっぱり、ダメだったようだ。
「ふごぉッ!?」
両足を滑らせて、男は木の枝で股間を強打する。
そしてそのまま白目を剥くと、真っ逆さまに木の下へ落ちていくのだった。
う、うわ、大丈夫かなあの人。
打ち所が悪くてチーン、なんてことがなければいいんだけど……。




