第2話 勇者の掟―10
「物理ですわ」
「……はっ?」
「あなたも剣士の端くれなら、戦えるのでしょう!? 炎が効かないと分かったなら、物理で殴るしかないですわっ!!」
それはあまりにも安直で、単純な発想だった。
しかしデンスはレイピアを構えると、真っ向から蜘蛛に向かっていく。
「くっ……バカヤロウ! オレは近接戦なんて出来ねーぞっ!」
「じゃあその腰の剣は、何のために携えているのですっ!」
デンスに吐き捨てられ、ナギはクッと歯噛みする。
そしてティルヴィングに手をかけたが――やはり、剣を抜くことはなかった。
「ダメだ……ダメなんだよ、シュー!!」
「え、ええ? よく分かんないけど、まあダメならしょうがない、っていうか別の方法を考えないと」
「だって……だってだけどさっ」
諦めたように、天を仰ぐナギ。
「勇者があんまし剣の使い方を分かってないって、イメージ良くないだろっ……!」
ナギの心からの叫びだった。
「勇者として召喚されたのなら、そのイメージを崩さないのが……“勇者の掟”ってやつじゃないのかよ……っ!?」
……まあ、ぼくら剣って言っても剣道くらいしかやったことないし、今までだいたいの危機は“ゆうしゃパワー”で何とかしてきたし。
それはその通りなんだけど、今言うこと? それ。
「来なさいッ、殺人蜘蛛!!」
一方で、幌の前に立ちふさがったデンスは、襲い掛かってきた蜘蛛相手に勇敢にレイピアを構える。
シャアアと高い音を立てながら、蜘蛛は鎌のような前足を振るった。
「クッ……このッ!」
デンスは器用に攻撃を避けるが、その背中はすぐに幌にぶつかり、これ以上後ろには下がれない状態となった。
そこに振り下ろされる鎌の一撃。
デンスはレイピアを横にして受け止めたものの、圧倒的な力と体格の差を前に、デンスの華奢な体は徐々に沈んでいく。
「嫌っ……こんな……ところでっ……!」
ついには膝が地面につき、上からの圧力を前に、デンスは完全に身動きが取れなくなってしまった。
そこに容赦なく、蜘蛛は口から白い糸を吐き出していく。
デンスの体は足元から徐々に糸に埋もれていき、全身の自由が奪われていく。
「こんな……最期なんてっ……!」
デンスの腕から力が抜けた。
いや――それはあえて、力を抜いたのだろう。
斜めになったレイピアの上を鎌が滑って、その先が地面に突き刺さる。
上からの圧力からは逃げられたデンスだが、既に下半身の自由は効かなくなっていた。
「認めませんわッ!!」
デンスは最期の力を振り絞り、右手でレイピアを放り投げた。
その剣先は、前足を振り上げていた蜘蛛の腹部に突き刺さる。
キシャアと、得体の知れない蜘蛛の鳴き声が響いた。
「一糸……報いてやりましたわ。あとは任せます、シュー様」




