第2話 勇者の掟―6
ナギは動くこともせず、腰のティルヴィングも抜こうとせず。
そのまま“ゆうしゃパワー”で迎え撃つ算段か。
両者の影が交錯する――その時だった。
「待たれぃ!!」
キンッと弟分の剣を受け止めたのは、馬から飛び降りた御者の持つ鞭の柄だった。
え、なに、この人も実はすごい人?
御者は山賊を力で押し戻すと――懐から一枚の木札を取り出した。
「あいにくだが、私は既に通行手形を購入済みだ! そういう話は、他でやってもらおうか!」
……は?
通行手形……って、そんなのが通用する相手じゃないでしょう!?
しかし二人の山賊は、まるで紋所でも突きつけられたかのようにたじろいでいる。
「あ、兄貴……! どうしやすか!!」
「うむ。あれは紛れもなく、“地裂の猛牛”が発行している手形だぜぃ。……しゃあねぇな、ここで手を出しちゃあ、それこそ俺たちの商売が出来なくなっちまう」
そう会話をかわして、獣道へと逃げていく山賊たち。
何があったのか分からないけど……助かったのか?
「おい、ガキ!!」
しかし、完全に姿を消す直前で、兄貴分の方が足を止めて叫んだ。
「あん?」
「今回はそこのオヤジの機転に救われたがな、さっきの舐めた口の聞き方、俺は忘れたわけじゃねーぜ。次にあったときは、覚えておきな!!」
「……ほんっと、捨てゼリフだけは一丁前だな、こういう連中って」
木々の中に消えていく、二人の山賊。
……結局これって、ナギが無駄に恨みを買っただけのような……。
「いやあ、迷惑をかけて悪かったね。実は私は、既に手形を買っているから、この道中で襲われることはないんだよ」
「話から察するに、“地裂の猛牛”ってのはここらの山賊の元締めってことか? そいつの手形があれば、ああいう雑魚からは手を出されないっていう」
ナギの質問に、御者は大きく頷いて見せた。
「その通りだよ。この辺りは警備の手も回らないような辺境の地だからね。昔は賊が好き放題やっていたんだけど、“地裂の猛牛”が現れてからは独自のルールが出来てきたんだ」
「ルールって、その手形を買わせて自分たちが儲かりたいだけだろ?」
「でも、その売り上げで本当に食べられない山賊たちの面倒も見てるって話も聞くし。一口に悪いやつらとは言えないんじゃないかな」
御者の口ぶりは、地裂の猛牛という集団に一目置いている言い方だった。
そこまで来ると、単なる山賊の一味というよりかは自治体のようなものに近いのかもしれない。
「なーんか、きな臭いんだよな……」
だけどナギは、地裂の猛牛という集団にあまり良い感情を持っていなさそうだった。
まあ、ぼくらはこの街道を通過したいだけだし、特に関わることもないだろうけど……。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そんなぼくの思考を遮断するような、一聴しただけで分かる断末魔の叫び。
「今の、さっきの山賊の……!?」
驚いた御者は、山賊たちが消えた獣道を見やった。
反対に、ナギは上空にいるぼくを見上げる。
ぼくは黙って首を左右に振った、木が邪魔で何も見えていない、そう伝えるためだ。
獣道からは、バキバキと何かが折れる音、グチャグチャと潰れる音。
そして、最後に水が滴るような音が聞こえてきた。
明らかに、何かとてつもないことが起こっている……常軌を逸した音だった。




