第10話 そして、勇者であるために―16
「私は勇者を“倒せ”と命じたのだ。どちらが強いのかを決めろと言ったのではない。知りたいのは、魔剣の主としてふさわしいのは誰か、ということだ」
一度下がった切っ先が――再び持ち上がる。
どういうことだ?
この王様は、ナギに何をさせたいんだ? アルゼを殺させることが目的なのか?
やはり、黒の剣の指揮をしていたことから考えても、ろくでもないことを企んでいるに違いない。
これ以上、シオンの命令に乗っかるのは危険すぎる。
「シュー、わりぃ。やっぱり、オレは――」
逡巡を断ち切るようにナギがティルヴィングを掲げた、その時だった。
「こちらこそ、悪いが」
ナギがアルゼに集中している隙をついて、ハバキが猛然と飛び込んだ。
岩のような巨体によるタックルに、ナギは数メートル近く吹き飛ばされる。
「これ以上余計な時間を使うと、こちらのリーダーの命に関わるのでね。強行突破させてもらう」
ハバキはアルゼの傷口に右手をあてがう。
すると、手のひらからは柔らかい光が溢れ出し、アルゼの傷が徐々に塞がっていった。
「ハバキ、さん……」
「まだ動かない方がいい。現状では止血程度の応急処置しか出来ない」
「うし、ろ……ッ!」
アルゼが指差したのは、ティルヴィングを振るうナギの姿だった。
「やめてよっ!!」
パメラが放った弾丸は暴風となり、剣を振るおうとしたナギを足止めする。
その間に、ハバキはアルゼに肩を貸すと、どうにか立ち上がらせてナギと距離を取る。
アリーナでは、完全に三対一の構図が出来ていた。
「……ああ、そうかよ。結局なんだかんだ言って、さっきまでのはオレを倒すための口実だったんだな」
「そうじゃないよ。だけど、ナギがまだ戦おうとするなら、決闘なんて関係ない。私だって、全力でアルゼを守りたいから」
パメラも完全にナギに対して敵対心を燃やしている。
こんな戦い、本当は誰も望んでないのに。
「三十秒、だ」
息も絶え絶えのアルゼが、唐突にそう言った。
「三十秒だけ……もう一度“勇者パワー”を使う」
「駄目だ。そんなことをすれば、体が持たなくなる」
「分かってる……今はそれだけ、命を張る価値がある」
アルゼの言葉に、ハバキはそれ以上何も反論しなかった。
言っても無駄だと、本心ではもう分かっているのだろう。
「俺が、勇者であるために……今だけ、俺の我がままを聞いてくれッ」
アルゼはハバキから離れると、右手を自身の胸の傷に当てた。
「ぐああああああああああああああっ!!」
放熱による強引な傷口の接合。
痛々しい姿に目を覆いたくなるが、それが再開の合図だった。




