第10話 そして、勇者であるために―15
「アルゼぇっ!!」
悲鳴にも近い声をあげて、パメラが駆け寄っていく。
しかし、その前を血塗れのティルヴィングが阻んだ。
「どいてよっ!?」
「悪いが、まだ決着がついてねぇ」
「決着って……どう見ても致命傷じゃん!? あんた、アルゼを殺したいわけ!?」
動揺するパメラだったが、ナギは無言のまま、親指で玉座を指し示した。
そこには、肘をついて足を組み、仰々しい態度で観戦を続けるシオンの姿がある。
その見下すような目は、まだ試合は終わっていないと、暗にそう告げていた。
「アルゼはもう戦えないよっ! お願いだから、そこをどいて! ハバキの治癒の力を使えば、まだアルゼは助かるはず」
「たたかえ、ねぇって……決め付けるんじゃねぇよ……っ」
弱々しい声だったが、確かに、アルゼの口から出た言葉だった。
「まだ動けるのか」
ナギはアルゼの喉に切っ先を突きつける。
アルゼは血の塊を吐き出すと、何度も咳き込んだ。
ハバキが焦って近付こうとしたが、ナギはその動きを押し止めるように剣先を揺らした。
「近付かせないつもりか。アルゼ、肺まで傷ついている可能性がある。喋るんじゃない」
「目の前で、偽者に勝利宣言されてよ……。黙ってられるわけ、ねぇだろ……っ!」
シオンは未だに決着がついたと認める発言をしない。
本当に、どちらかが死ぬまでこの戦いを続けさせるつもりなのか。
だとしたら、悪趣味すぎる。
「ねぇナギ、もうやめようよっ。こんなことをしても誰も報われないって」
「うるせぇ、シュー! お前は、どっちの味方なんだよっ!」
「味方とかじゃなくて……この不毛な戦いをやめようって言ってるんだ」
「それじゃあ、リンは助からないだろッ!?」
自分自身に言い聞かせるように、ナギは叫んだ。
そう、なのだ。
今のナギを動かしているのは、リンを助けたいという思い、それだけだ。
だけどぼくは、誰かを傷つけてまで……殺してまでリンを救うのであれば、他の方法を探したい。
「無茶を承知で言うけど、アルゼさん、ハバキさん、パメラ……ここは、ナギに勝利を譲ってくれませんか」
駄目で元々。
思い切って提案してみると、返ってきたのは予想外の返事だった。
「譲るも何も、今の勝負はどう見ても君たちの勝ちだろう。私たちは降伏するよ」
あっさりとしたハバキの返事だった。
それを聞いて、ナギはほっとティルヴィングを下ろす。
ひとまず決着はついたようで、ぼくも一息ついたが――
「部外者が、何を言っている?」
そこに、シオンの冷徹な声が響いた。




