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第10話 そして、勇者であるために―14

「ああ。彼は生ける神となった、伝説の勇者“ベオウルフ”の直系の子孫でね。その先祖の力を呼び覚ますというのが、アルゼの言う“勇者パワー”なんだ」


「よ、よく分からないですけど……“ゆうしゃパワー”っていうのは結構使える人がいるんですね」


「……む? それこそよく分からないな。“勇者パワー”は、アルゼが勝手に自分の持つ力に対して言い始めたことだが」


 ぼくの言葉に対し、ハバキは困惑の表情を見せた。

 ということは、ナギの言う“ゆうしゃパワー”と、アルゼの持つ“勇者パワー”は全くの別物ということか。


 しかし、そんな偶然があるのか?

 まさかそれすらも、ナギがパクって言い出したこととか。


「ぐあッ……!!」


 馬乗りになられたナギは、アルゼに何度も拳で殴られていた。

 殴られた箇所は痣ではなく、痛々しい火傷となって腫れ上がっている。


 酷い。

 こんなの、勇者の戦い方じゃない。


 原型を留めていないナギの顔から、折れた歯がコロコロと転がっていく。


 いつの間にか、しん、と闘技場が静まり返っていた。

 それは勇者のイメージとはかけ離れた、あまりにも壮絶な殺し合いを、目の前で見せ付けられたからである。


「だから、力を使うなって言ったのに……!」


 あちゃー、と顔を伏せるパメラ。

 アルゼは動かなくなったナギの上でピタリと動きを止めると、大きく天を仰いだ。


「これで三分か。燃料切れだな」


 そう言って、ハバキはぼくを解放した。


「燃料、切れ……?」


「身体の限界を遥かに超えた動きをするからな。そもそもが長く持つ力じゃない。もっとも、勝負を決するには十分すぎる猶予のようだったが」


 アルゼは肩で息をしながら、大きくうなだれる。


「も、もう小指一本も動かせねー」


「だがよくやった、アルゼ。これで我々が、真の勇者だと証明することは出来た。後は、私が彼を治癒しよう」


 ハバキは労うようにアルゼの肩をぽんぽんと叩く。


「な、なんだよ、それ……」


 ナギは負けた。

 そしてこれからは、偽の勇者の烙印を押されることになる。


 本当に、これでいいのだろうか。

 リンを助けることも出来ず、ぼくらの旅はここが終着点となってしまうのだろうか。


 ……いいわけがない。


 ぼくが、何とかするんだ。

 今からでも遅くない、ぼくに、何か出来ることは――


「なーんちゃってな」


 逡巡の中で、その出来事に気がついたのは少し遅れてのことだった。


 ナギの声がした? と思ったら、ナギの体がティルヴィングで串刺しにされていた。

 だがそれはアルゼの手によってではなく、地面から生えたティルヴィングが、下からナギを刺していたのである。


「ハバキのおっさんに感謝するぜ。こんな作戦を思いつかせてくれたんだからな」


 ボコボコにされたナギの体が、どろどろの泥となって溶けていく。

 ナギは、ナギの体越しに、ティルヴィングの剣先をアルゼに突き刺したのだ。


「かはっ……! な、に……?」


「お前みたいな頭に血が上りやすいアホは気がついてなかったみたいだけどな。お前が殴ってたのは、オレがとっさに作った土人形だよ。んで、オレは人形作りで空いた穴にすっぽり隠れてたってわけだ」


「いつの……間に……」


「おいおい、それも説明しないとわかんねーのかよ。ホントに単細胞なヤツだな。水蒸気を目くらましに使ったって、それすらも気付いていなかったのか?」


 溶けた泥の下から、不敵に笑うナギが姿を現した。

 そしてナギは立ち上がると、一気にアルゼの体からティルヴィングを引き抜く。


 胸から大量の血を流しながら、アルゼはその場に崩れ落ちた。

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