第2話 勇者の掟―4
また掴まっては大変なので、慌ててナギの背中に隠れる。
少女はよほどぼくのことが気に入ったのか、悲しげな表情であうあうと身悶えている。正直ちょっとキモい。
「教えてくださいませ、その子はいったい何ですのッ!? 動物!? 魔物!? 魔法生物!? 私の知識の中にはそんな生き物は居ませんでしたわ!!」
「人に教えを乞う時は、まずは自分のことからだろ? あとお前、いい加減ちょっとボリュームを落としてくれよ」
すっかりハイテンション状態の少女に対して、さすがはナギ、ナチュラルに上から目線である。
また、正面に座っている商人風味の大人たちの目線が冷ややかになってきたので、そこに気を配ることも忘れていなかった。
「はっ!! これは私としたことが……失礼いたしました。私の名は、デンス・パトリシエ。世に名立たるパトリシエ家の箱入り娘ではございますが、今は故あって、こうして一人身の旅をしている最中でございます」
えっ……知ってる? と、ナギは大人たちに表情だけで語りかける。
三人の大人は揃って、知らない、と首を左右に振っていた。
デンスはそんなやりとりが行われていることに全く気付かずに、ぼくだけに野獣のような眼光を向けている。
「さて、私の自己紹介は以上ですわ。次はあなたと……エンジェルぶた様の番ですわよ!?」
だんだんと、この子が想像以上にヤバいやつの気がしてきたのだが、こう迫られては無視も出来ない。
あと、エンジェルぶたとかいう変なあだ名をつけられるのも嫌だった。
「ぼ、ぼくはシューだよ。自分がなんてカテゴリの生き物になるのか、それもまだ分かってないんだけど……」
「オレはブベラッモ・トゥトゥルトゥルスティーンだ。よろしくな」
はいいいいいいいいいいいいいい!?
ナギは恐ろしく自然に、不自然な偽名を名乗っていた。
やっぱりこの子に正直に名乗るのはやばかったってことか!?
「なるほど、シュー様に、ブベ、ブベラ……? ……トゥルスティーン様ですわね! こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」
さすがにブベラッモ・トゥトゥルトゥルスティーンは一発では覚えられなかったようである。
しかしそれをそのまま信じてしまう、デンスもどうかしていると思うが……。
「では、ちゃんと名乗ったのでにぎにぎしてもいいですわよね!?」
「いいよ」
「そ、それはダメ、って何勝手に返事してんのさ!?」
デンスはハァハァと息を荒くしながら手を伸ばしてきた。
やばい、このままじゃ何か、大事なものを奪われそうな気がする。
「どうして……どうして逃げるのですがシュー様ぁ……!」
「君が怖いからだよ!! こっち来ないでー!」
そうしてぼくが、馬車の中をぱたぱたと逃げ回っていた時だった。
突然、前触れもなく止まる馬車。
もっとも宙に浮いているぼくはその影響を受けないので、立ち上がっていたデンスだけがぶっ飛んで顔面から壁に激突していった。
「ぐ……ぐはっ……ですの……」
「騒々しい、何かあったみたいだな」
力尽きたデンスを尻目に、ナギは馬車の中から進行方向を覗いてみる。
その先には、抜き身の剣を持った二人の男が、猛々しく剣を掲げて立ちはだかっていた。




