第10話 そして、勇者であるために―5
「なんだ、こんなところにいたのか。……おやおや、これが噂の勇者様かな」
姿を現したのは、ひょろっとした体格の、神官服に身を包んだ壮年の男である。
「これは父さん。そうです、彼がドラゴンを狩ったとされる勇者です」
「ほう。まだ若いのに見事なものだ。私の子らが騒々しくて、すまないね」
まったくだ、とナギの心の声が口から漏れ出している。
「しかし良い機会だ、勇者様には是非紹介しておかないとね。こっちは我が最愛の愛娘、セリアだ。スコル教の自警団の団長をさせている。そしてこっちは我が最愛の愛息子、リュートだ。彼はルクスパレス王が直々に裁量を持つ勅命騎士団“銀翼の鷹”の、騎士団長をしているのだよ」
そう言って、セリアとリュートの父は自慢げに満面の笑みを浮かべてみせる。
この親あって、この子らありという感じか。
しかもどうやら二人とも、かなり武術に長けた人間であるらしい。
「そして私は、スコル教の大司教を務めさせて頂いている、グラニア=スコル=ブラウベルだ。挨拶が遅れてすまなかったね」
そう言って、グラニアはにこりと優しい笑みを浮かべた。
…………大司教?
ええと、少し情報を整理すると、ルクスパレスは王家とスコル教の二つに権力が分かれていて、そのトップってことだから……。
「め、めちゃめちゃ偉い人ってこと!?」
要は王様と並ぶ、ルクスパレスのトップ2の内の一人ということだ。
正直、まったくそういう風には見えなかったので、かなり適当な態度を取ってしまっていた。
グラニアは申し訳程度に口髭を生やしているが、はっきり言って威厳はない。
気弱そうな、どこにでもいるおじさんというのが、グラニアの印象だった。
「この後の表彰式、楽しみにしているよ。また後でね。二人も、あまり長居すると迷惑だろうし、その辺にしておきなさい」
「ハッ。……明日の武闘会のこと、是非前向きに検討してくれたまえ」
最後にセリアがそう言い残して、ブラウベル一家はようやく控え室から出て行ってくれた。
訪れた静寂に、ぼくは大きくため息をつく。
「つ、疲れた……。なんか、みんな凄い偉い人だったみたい」
「ま、王が直々に出席する表彰式だからな。教団のトップが来ててもおかしくはないか」
足を組んだまま貫き通したナギの態度には、一周回って拍手を送りたいくらいだった。
「しかしあんな親バカが教団のトップって、大丈夫なのかスコル教――」
「すまない。マイ雑巾を忘れた」
唐突に入り直してきたリュートに、さすがにナギもずっこける。
「ん? なんか言っていたか?」
「何でもねーよ……。ちょっと一人にしてくれねぇか。旅で疲れてるんだ」
そう言ったナギの前にリュートは躍り出ると、まじまじとその顔を見つめる。
「な、なんだよ」
「ふむ、しかし……。いや、まさかな。妙に似てはいるが……」
ぶつぶつと意味不明なことを呟いてから、リュートは控え室を出て行った。
「言いたいことがあるなら、はっきり言えよ!」
ナギは憤慨して、閉じられたドア目掛けて怒声を叩きつける。
結局、妙な来訪者のせいで、ぼくらは表彰式の時間までに何の打ち合わせもすることが出来なかった。




