第10話 そして、勇者であるために―4
それは今朝、ぼくらが闘技場に向かうために、宿を出ようとした時だった。
「なに? これ」
部屋の扉の下に一枚の紙切れが挟まっていることに気付く。
短い手足で無理やりスライドさせて取ってみると、そこにはこんなことが書かれていた。
『勇者へ。君は決して前夜祭に向かってはならない。偽りの時間は終わりを告げ、血と後悔だけが後には残るだろう』
警告……それとも脅迫文……?
勇者へということは、ナギへ書かれたものなのか?
「ねぇ、ナギ――」
振り返った時には、もうすぐそこにナギはいた。
ナギは無表情のまま、無言で紙切れを拾い上げると、握り潰す。
「くっだらねぇ」
一蹴。
ナギの反応はそれだけだった。
いったい誰が――何のために――?
真っ先に疑ったのはハバキだ。
ぼくらがこの宿にいることを知っているのは、彼しかいないはずだから。
だけど、勇者というのは……明らかにナギと、ティルヴィングのことを知っている人間じゃないか……?
そんな疑問が、ぼくの頭の中には、今朝からずっとまとわりついていた。
***
だけどその疑問が、こんなところで解決するなんて――
「今朝のアポカリプスの神託を、お前らは聞いていないのか?」
当然とばかりに、リュートはさらっと言った。
…………ええっと?
「ご、ごめんなさい。アポカ……なんですか?」
「アポカリプス。スコル様のお告げを直にこの世に伝える、神託の書だ。リュート、今朝の予言はどうだったか?」
「『炎竜を屠りし勇者、因縁と共に相まみえん。天空の魔獣は、その全てを記憶するだろう』。……です、姉さん。一字一句間違えておりません」
「よろしい。汝に太陽神の祝福があらんことを」
セリアに頭を撫でられて、でへでへと破顔するリュート。
「ハッ。……何を見ている、姉さんは見せ物じゃあないぞ貴様らッ!?」
「いや、もうなんつーか好きなだけやっててくれ。要は、アポカリプスっていうのはスコル教の預言書で……そこにオレらのことが書かれてたってわけか」
「そうだ。ついでに神託の内容は朝刊で配られているから、お前らは既に有名人になってるぞ。驚いたろう?」
セリアはぷぷぷーっと、頬を膨らませて吹き出した。
なんかバカにされてるみたいで若干癪に障るけど……そうすると、ぼくらがここに来ていることは、ルクスパレスの人間だったら誰でも知っているってことか。
今朝の手紙の差出人の容疑者は、これで一気に広がったことになる。
全身からガクッと力が抜けて、どっと疲労感が溢れ出してきた。
「表彰式まで待てば良い話なのだがな。私たちは、いてもたってもいられず勇者を見に来たということだ」
「そういうことだ! 姉さんに会えたこと、光栄に思えよ!」
なぜ野次馬根性をそこまで自信たっぷりに言えるのか……。
やはり、このヘンテコな姉弟とはあまり関わらない方がいいかもしれない、面倒くさそうだ。
「おい、セリア! リュート! どこへ行ったのだ、父に会いに来たのではないのか!?」
そうこうしているうちに、新たな声が部屋の外から聞こえてくる。




