第2話 勇者の掟―3
そして、結局そんな、人間なのかも分からない少女を村に置いていくことも出来ず。
村で一晩明かした後、乗合馬車に乗せて、こうして一緒に連れてきてしまったのだった。
ただこれは、なんだかんだで、ナギにも良いところがあるってことなのかな?
「ま、心配すんなって。一応これでも、行くアテくらいは考えてるんだぜ?」
「え、本当に? そんなこと一言も言ってなかったじゃん」
「人狼の里っていうのがな……この先にあるらしいなんだ。オレも、詳しい地名までは知らないんだけどさ」
人狼の里? するとこの子は、俗に言う人狼って種族になるのか?
「っていうか、いつの間にそんなこと調べてたの?」
この体になってからは、四六時中ナギと一緒に居るつもりなのに。
ナギはいつも、ぼくの知らない情報をちゃっかり持っていたりするのだ。
「ハッ、お前のスカスカの頭と一緒にすんなよ。オレは天才だからな」
む。そうやってすーぐ調子に乗るんだから、ナギは。
だけど実際、ナギはいつもテストで一番を取っていて、運動神経だっていいし、顔はぼくから見てもカッコイイと思える。
本当に、非の打ち所のないスゴイやつなのだ――性格以外は。
「とりあえず、早くこの子の家が見つかるといいね。……ってまあ、それはぼくらにとってもまったく同じ状況なんだけど」
「同じ?」
キョトンとした表情でぼくを見返すナギ。
まさか、と物凄く嫌な予感がした。
「もしかしてナギは、元の世界に帰ろうって考えてない――」
そう、大事な話をしようとした瞬間である。
バツン!! と天地がひっくり返るような衝撃と共に縦長に伸びる視界。
い、いったい何があった? 体がまったく動かない!!
「た、大変だナギ!! なんか馬車の中が縦長に」
「馬車の中っていうか……お前が縦長になってるぞ」
今度は横に伸びたり斜めになったり。
世界がまるでゴムのように、忙しなく伸縮している。
「さっきから、人がまどろみの中にいるのにゴニョゴニョとうるさいと思えば……!」
その少女の声は、ぼくの真後ろから聞こえた。
「何ですのッ!? この可愛らしい生き物は!! 説明してくださいましッ!!」
どうやらぼくは、ナギの右隣に座っていた少女によって、良いように弄ばれているようである。
「ちょ、ちょっとナギ……止めて、止めるように言って」
ぐにゃぐにゃする世界に酔ってきたので、何とか止めてもらおうとしたが、ナギはこっちが引いてしまうほどのゲスい顔でぼくを見ていた。
あ、悪魔だ。
この悪魔、完全にぼくが困っているのを楽しんで見ているっ!!
「ぶた? ぶたさんですのこの子は? でもなんか小さな羽が生えてるし、かーわいー!」
「あー……あんまり手荒に扱うのは止めてくんないかな。“わた”が飛び散っちまうよ」
「臓物が!? 意外とグロいんですのね!?」
少女はびっくりしてぼくから手を離した。
なんか勘違いされているのが気にかかるが……まあいいや、これ以上乱暴に扱われたくないし。
振り返って見ると、そこには黒髪の可愛らしい少女がいた。
ただ、少女とは言ってもぼくらよりは年上に見える、たぶん十七歳前後だろう。
背中まである長い髪はゆるく波打っていて、頭のてっぺんの青いリボンと合わせて、少女漫画にでも出てきそうな雰囲気の子だ。
ただし、身に付けている革の鎧と腰のレイピアから察するに、そんな世界とは正反対に生きていそうであるが。
「で、でも今のえもいわれぬ柔らかで滑らかな感触……さ、触りたいッ!! 私、その子を触りたいですのッ!!」
少女は口の端からよだれを垂らすほどの恍惚とした表情で、再びぼくに手を伸ばしてきた。




