表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/31

逃げた先には

 僕もチビも、言い合わせたように素早くその場から逃亡にかかる。

 

 犬たちも、猫に劣らず年老いていたようだ。走る速度もそれほど早くないし、最初から息をゼイゼイさせている。

 だからと言って安心とはいかない。

 

 何にしても、工場から出るところがあるか。

 見つけられなければ、いつかは追い詰められてしまうだろう。

 

 僕もチビも焦っていたから、最初に入った穴の方に戻ると言う考えも浮かばなかった。すぐに自分が、どこにいるかも分からなくなる。

「んもーっ。謎が解けるんじゃなかったのー」

 誰への文句なのか分からないことを言いつつ、僕は逃げる。

 

 チビの姿は、いつの間にか見えなくなっていた。犬も一匹に減っている。

 

 どこかで別れてしまったのだろう。

 

 チビは、捕まったりはしていないはずだ。僕より、ずっと逃げるのがうまい。

 僕が無事なぐらいだ。チビは問題ないだろう。

 

 そのまま走って行くと、通路は行き止まりになった。

 突き当たりに、場違いな白木しらきのドアがある。

 

 犬は引き離しているが、道を引き返す時間があるかどうか。

 

 鍵が掛かっていたらどうしよう? 

 

 扉は開いた。

 中は、空じゃなくて人がいる。木屑の敷かれた床に蹲る人影は、小さかった。

 

 振り向いた男の子は、僕も良く知る人物だ。何と言っても。

「えっ。リルケ?」

 僕の二つ年下の、八歳の弟。

 六人兄弟一大人しくて、生真面目。

 

 末っ子のノエルが生まれた時は赤ちゃん返りをしたり、ママにべったりくっついているのが好きな子だった。

 それが田舎の大叔母さんちの寂しい屋敷に嫌がることなく出向いたんだから、人は分からないものだ。

 リルケは僕に気付くと、

「ラジニ兄様。ヒヨコの仕分けを、手伝って欲しいんだ」と、言う。

 僕は後ろ手に、ドアを閉める。

 

 廃工場から出ると、そこは大きな納屋だ。

 木屑を撒いた通路に、リルケは作業用の青いカバァオゥルを着て座っている。足元はゴムの長靴だ。

 

 今は空っぽだが、棒の差し渡された房が並んでいるので、牛か馬を飼う為の小屋なのだろう。

 リルケの身体にも、焦げ茶の縞のしっぽと耳がついているが、もう気にならなかった。リルケも僕の弟なんだから、猫に決まっている。

 

 リルケの前には、木箱が置いてあった。

雌雄しゆうの見分け方は本で読んだことあるけれど、実際に出来るかなぁ」

「嫌だなぁ。ラジニ兄様にいさま。雌雄じゃないよ。鶏から生まれた卵のと、卵から生まれた鶏で分けるんだよ」

「何だって?」

 僕は、頓狂な声を上げる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ