そしてやっと
そこも室内だったが、赤い革のカウチにも雑然とした雰囲気の室内にも、人の姿はなかった。
代わりに、床に置かれた止まり木に、白色の鸚鵡が止まっていた。
僕を見ると鸚鵡は、黄色の冠毛を逆立てて、ギャアギャア喚き出した。
「猫。ギャア。猫」
合間に、人の言葉も混ぜ込む。
別室から、女の人の不機嫌な声で、窓なら閉まっているでしょと鸚鵡を諫める声がする。
「テレヴィでしょ。テレヴィ。ギャヴァン」
「猫。ギャア。猫」
「うるさいなぁ。僕はお前なんか食べないし、いじめないよ」
僕は小声でシッと叱り付け、窓を開ける。
ここは石造りの三階だったが、背に腹は変えられなかった。
それに彫刻の施された石樋は、僕なら伝わり下りるのに問題はない。
窓の下の細い張り出しに爪先を引っ掛け、石樋ににじり寄る。もう少し張り出しが広ければ窓を閉めてあげても良かった。
本当に、意地悪で腹ペコの猫が来たら可哀想だからね。
でも鸚鵡は相変わらず怒って喚いていたから、飼い主が忍耐を切らして叱りに見に来るに違いない。
その時に窓は、閉めて貰えばいい。
それより前に僕は、見当たらない場所におさらばだ。
僕は石樋を安全に降りきって、石畳の地面に降りる。
僕が小走りでその建物の角を曲がると、一番会いたい人に出会えた。
「ラジニ君」
耳に心地よい穏やかな声と笑みで、先生が道端で僕を待っている。
「先生。僕、戻れたんだ」
僕は先生の腰にギュウッと抱き付いて、肋あたりに顔を埋めた。
鞄に入っている虫よけのラベンダァの香りと、先生の匂いがする。
「まだです。でも私が迎えに来たから、もう大丈夫ですよ。魔除け石を身に着けていますから」
先生の広げた右手に包み込まれていたのは、赤瑪瑙の斑紋を虹彩に見立てた楕円の目玉型の石。先生が、土産売りから買った石だ。
このへんてこりんな夢が始まったのは、そもそも僕が夜寝る前にお呪いをした所為――と言うより、悪いのは僕じゃなくて、
「あのリィスとお呪い、悪いものだったのですね」
好きな生き物になれると言われたし、僕はお呪いの方法を間違えたつもりもない。
悪いのは道具、ひいてはあれは売り付けた年寄りに違いない。
「悪いと言う訳ではないんですがね。困ったと言うぐらいで」
先生は苦笑して、
「昔、何かで読んだ覚えがありまして。彼ら原住民の崇める神は、大の悪戯好きの獣だそうで。君なら遊びに付き合ってくれそうだと思ったのでしょう」
黄ばんだ瞳の年寄り。
赤ら顔をしていたが、年寄りからしていたのはアルコォル臭ではなくピリッと刺激的で野性的な、獣みたいな香りだった。
きっと民族衣装の頭巾の下には、今の僕のような耳や尻尾を隠していたに違いない。




