マルチバースへようこそ
四分割された棒の間の空間のどれかに、四角い画面があって、それぞれ色んな映像を映し出している。
僕が出たのは、お店の商品棚らしい。
上の方の棚のテレヴィに、アァビィが映って僕を呼んでいる。
僕は商品棚をよじ登る。
後ろは見ない。
あの小さい子以外に誰かが見ていたかも知らないが、僕は見ていない。だからいないも同然だ。
画面を通り抜けるとまた、テレヴィがディスプレイされたみたいな場所に出た。
円筒の台座から僕は床に飛び降りる。
白い通路に人の姿はないが、閉館まであと十分ですと言う、音楽的で中性的な声の館内アナウンスが聞こえていた。
博物館みたいな所なのだろう。
等間隔に並んだ円筒の上に、芸術品や道具の歴史的変遷を辿るように品物が載せられている。
四角い箱に、柄付きの丸い手鏡を刺したような形のテレヴィから僕は出て来た。
アァビィが僕を呼んだのは、五つほど右にある製品だ。
古くなったのか、新しくなったのかは分からない。
三十センチほどあった下の箱が半分以下のサイズになり、代わりに手の平サイズの手鏡が倍以上の大きさになると同時に、画面が円から楕円になっていた。
それから幾つのテレヴィ画面を通り抜けただろう。
ある時アァビィが、
「ああ。ここ」
と、曰くありげに呟いた。
黒い鉄板を張った建物の並ぶ街角に、ポスタァみたいに薄い画面が美術館の絵画のように並べて架けられた所でのことだ。
「次元は違うけど、君の兄弟らしき奴らがいるよ。別の次元では君の兄さん達だと思うんだけど、どうかなぁ」
アァビィが顔を脇に寄せると、背後の光景が見えた。
テレヴィ画面に対して僅かに斜めを向いた安楽椅子に、三十代半ばほどの男性が座っている。
男の人は、椅子の左脇に立つ少年の持つ紙を見ながら、何か話をしていた。
不意に男性が立ち上がり、右手に歩み去って姿が見えなくなる。
双子より、一つ二つ年上ぐらいの襯衣と灰色の長ズボンの少年も気になるが、僕の目は少年の後ろに置かれた革の鞄に、頭を突っ込んでいる生き物に釘付けだ。
そいつらは二匹いた。
完全に閉じられていないフラップの下に一匹が頭を入れ、革のペンケェスを引きずり出そうとしている。
とてもよく似た白くて毛足の長い猫で、瞳は青と緑だ。
いかにも高貴な血を引いていそうに見える。
二匹は、一匹ずつ周囲を窺う悪知恵を働かせ、音も立てず、変に焦ることもなく完璧に事を完遂させようとしている。
よく見ると一方は右目が青で、もう一方は左目が青い。
何食わぬ顔は天使のように愛らしい小猫だが、やっていることは悪魔のように狡猾だ。
周りに気は配っているが、まさかテレヴィに監視の目があるとは思っていない。
いや、見ていてもテレヴィの住人は自分達の存在を晒すような真似をしないと、高を括って安心しているのだろう。




