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テレヴィの中の迷子

「そっか。まぁ仕方ないな。こいつ潮臭いし」

 海水に囲まれた船の猫をしている癖に、潮臭いだって。

 海が荒れたら、波をかぶることだってあるだろうに。

「兄さん、気を付けて。地上に出て港に入ったら、すぐ手紙を頂戴」

「分かった。けど、お前の郵便番号が」

「ジョゼと私書箱の番号を取り交わしたから、ジョゼに聞いて。兄さんと違って、当てにできるからね」

「ぽやっとした可愛い弟が、皮肉屋になっちまってまぁ」

 んもう。

 色んな意味で、やっぱり兄と言うのも嫌なものだ。

 

 僕はじゃあねと背を向け、兄さんは先生によろしくと僕に伝言を託す。

 

 アァビィが呼ぶ声を頼りに、僕は細い通路を駆け出す。

 床スレスレの高さにあるオレンジの管からアァビィが、潜ってと僕を招く。

 僕は、僕の頭が入るだけの大きさしかない画面に、頭を突っ込む。

 ちょっと苦しかったけれど、ちゃんと通り抜けられた。

 抜けてもまだそこは、ネオン管の這い回る洞窟だ。

 

 ネオン管の画面に映るアァビィが気がかりそうに、

「君の大きな兄さんはともかく、レテの水が島のことは忘れさせてしまうから、どうかな?」

「レテの水?」

「連中がアムリタ草と呼ぶ物さ。普通の人間が食べると、地下の島に関わる記憶をなくしてしまう。連中は、人間には島の存在を隠しておきたいからね」

 それはそうかも知れない。

 教授達のように、知的欲求しかない人ばかりではない。

 鉱石を売り飛ばすことを考える船員もいたのだ。

 住人がいるんだから、島の人の物って言う考えは浮かばなかったんだろうか。

 

 学者の好奇心だって、そこに住んでいる者にとったら迷惑かも知れない。

 あんな場所の存在が知られたら、世界中から人が押し寄せるだろう。

「彼ら、服や船室のチェックまでしないといいけど」

「するだろうね。住所は無関係なものと見なしてくれるといいけど、どうだろう?」

「まっ、いいや。僕からは出せる」

 ポケットを探ると、確かにジョゼが住所を書き記した紙が出てくる。

 これなら問題はない。

 

 グラッドストン教授やヘルトリンク教授には、せっかく知ったことを忘れるのは可哀想かも知れない。

 グラッドストン教授は地学者だけれど、専門は古生物学だから、島を見つけても直接的な恩恵はないだろう。

 ヘルトリンク教授は新種の植物を見つけられて夢中だったが、ヘルトリンク教授には別のジャングルなり人跡未踏の地で新種発見に勤しんで貰おう。

 

 アァビィに従って幾つかネオン管を通った後で、それまでとは違う景色の場所に出た。

 僕が四つん這いになっていたのは木製の、傷痕と焦げ跡だらけの机の上だった。

 机の周囲には、四角い箱や丸いやゴミみたいな物が積み上げてある。

 それらの道具の合間を、配線コォドが這い回り、繋いでいる。粗大ゴミだろうか。

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