テレヴィボォイ現る
「兄さんは犬、平気なの?」
「なつっこい奴ならな。それに港で飼われる犬は、船の猫をいじめたりなんかしない。敬意を払うよう教えられているからな」
「奴ら。小さくて、毛のある生き物が好きで好きでならないんだ」
犬好きの人なら、笑顔と呼ぶ表情を浮かべ、目を喜びで輝かせていると表現したりするんだろう。
僕からするとその顔は、牙を見せつける悪魔の笑いであり、燃える爛々とした目だ。
魚を食べに海に入って来たのか、フサフサと長い黒灰色の毛はびしょ濡れだ。
海狼だって? 狼は犬より上、下?
どちらがより、僕にとっては悪いのか。
海狼は暫く警戒して窺っていたけれど、勝手に安全だと判断したらしい。
遊ぼうとばかりに――揉みくちゃにしてやると、こちらに向かって駆けてくる。
犬よりも足が遅いのは、幸いだった。アシカが這うみたいな、ノッタノッタノッタと言った走り方だ。
でも僕にしたら。
「う、うひゃあ」
「さぁ。急いで画面の中に入って」
アァビィの促しに、僕は勢い良く身体を石の表面にぶつけていた。
身体を固い物にぶつけることなく、僕は空間に転がり込む。
姿勢を立て直して振り返ると、海狼は獲物を見失ってポカンとしていた。
やっぱり僕を狙っていたのだ。
すぐに海狼は、矛先を変えた。兄さんへと嬉しそうに、跳びかかる。
テレヴィ画面を通すと、兄さんの頭には猫耳、尻にはしっぽが生えている。
兄さんは、赤茶の縞猫だ。
僕ら兄弟の毛色、本当に似ていない。
兄さんは海狼にのしかかられ、頭を舌で舐め回されている。
「おいおい。水は払ってから来てくれよ」
顔を顰めてはいるが、兄さんは大丈夫そうだ。
僕はようやく落ち着いて、周囲を見回す。
「あれ、アァビィ?」
以前は、アァビィのCMの本の小部屋に出た。
アァビィも側にいない。
僕がいるのは、色とりどりのネオン管が走り回る狭い通路だった。
海狼にねぶられる兄さんが映っている画面は、黄緑色のネオン管が広がって平たくなった部分だ。
「竜人達が作った機械は、人間のテレヴィとは仕組みが違うんで、直接通り抜けはできないんだよ」
アァビィの声が聞こえた方に、顔を振り向ける。
安定の島を映す画面と通路を挟んだ反対。
百六十センチほどの天井近くにある黄緑のネオン管の一部が、手の平ほどの大きさに広がっていて、そこにアァビィが映っている。
「僕もできる限り導くから、とにかく君の世界を見つけて出て行くんだ。いったん君の世界に出たら、あとは君の思いが、正しい場所に導いてくれるからね」
幻想第四次空間のお計らいで……。
僕は、
「兄さん。僕、島には戻らずこっちから帰るよ。みんなにそう言っておいて」




