前時代の遺物
ヘルトリンク教授はもちろん石より草。自分の手元のアムリタ草に夢中だ。
僕とクレイブ兄さんだけが、そのまま歩いて行く蜥蜴少年に付いて行く格好だ。
歩いて行くと、石に凭れたり、寝そべる他の蜥蜴人も見かける。見た相手は、どれも大人にはなっていないような姿をしていた。
「綺麗だね」
「うん。まあ、自然物じゃなく、道具だけどね」
「え? 君達が作ったの?」
「前の住人がね」
蹲る牛ほどもある蛇紋岩、縦に割って断面を平らにツルツルに研磨した物に、蜥蜴少年は手を置く。
「例えばほら。電波受信映像機だよ。君達の世界のテレヴィみたいな物。これで地上のことを知るんだ」
濃緑色の中に走る白い条紋が、生きた蛇のようにクネクネ動いたかと思うと、一人の男の子の顔を映し出す。
ああ、その男の子は!
「アァビィ」
「知り合いか?」
クレイブ兄さんは船に乗っている所為か、年齢の所為か、彼の顔に覚えがないらしい。
「うん。僕らぐらいの年の子供みんなの友達さ」
「ラジニ。今日はまた、変わった場所にいるね」
「うん。まぁね。君はこんなふうに出て来て平気なの?」
「ああ。連中は普通の人間じゃないしね。姿は見せても騒ぎにならない。でも話も合わないから、よしあしなんだけど。たまに顔を出すんだよ、退屈紛らわしに」
「君だってテレヴィ少年じゃ、まともな人間って訳でもないだろうに」
蜥蜴少年が、もっともな皮肉を言う。
「いやいや。人間の男の子として作り出され、普通に子供達と接している僕を甘く見ないでくれ。隔離された場所で、まともに人と接する機会さえない君達とは違うさ」
アァビィにやっつけられても、蜥蜴の子は軽く肩を竦めて堪えた様子はない。
アァビィは僕に再び向き直り、
「それよりそこ。大きな犬に似た生き物がいるけど? ラジニ、君、犬が駄目じゃなかったっけ?」
えっ!
僕はギョッとして、蜥蜴少年を縋るように見る。
「襲って来る?」
「いいや。大人しいよ。猫をいじめたりもしない」
噂をすれば何とやら。
大きな針水晶の後ろから、獣の頭がひょこんと覗く。
三角耳に長く伸びた口吻。開いた口からはみ出た舌は青黒い。
「犬!」
「ただの魚食いだよ。人間は海狼なんて、名付けたりするけど」
「そういや、お前は犬が苦手だったよな。双子もあんまり好きじゃないが、あいつらは犬をからかって馬鹿にするからな」
兄さんは、呑気なことを言っている。
その発言にアァビィが食いついた。
「双子って、ラジニのぬいぐるみにもひどい扱いをする奴らだな。確か寄宿学校で暮らしていると言ったね。それらしい奴らは、見つけてあるんだ。もしラジニの兄弟じゃなかったら悪いと思って、悪戯を仕掛けるのはよしてるんだけど」




