島の住人
バスケットを砂浜の上で開くと、僅かな風で、緩衝材に詰めてあった丸めた新聞紙が飛ばされる。
海ではなく島の内に、コロコロとタンブルウィイドみたいに転がって行く。
僕はついつい追いかけた。
「ラジニ君、気を付けるように」
教授達が声を張り上げるが、僕の足は止まらない。
白い幹の群れを抜けて、これも白けた下生えの茂みの許で、ようやく止まった。
しゃがんで拾おうとすると、茂みを通して生き物の目と目があう。
四つん這いになって金色の目を丸く見開いた、僕より年下の子供だ。
「人がいる」
僕は思わず、声を上げる。
それに合わせて、茂みの向こうの子供が立ち上がった。
「え、あれ?」
髪を綺麗に剃って形のいい頭をさらした男の子は、末っ子のノエルぐらいの年だろうか。
白くて裾がボロボロの腰巻き一つのお尻から、薄紫色の地面に付きそうなほど長いしっぽが生えていた。
毛の生えた獣の尾じゃなくて、細かい鱗の滑らかな尾だ。
僕が驚いていると相手は、幼いわりにしっかりした口調で聞いてくる。
「あんた、蜥蜴人は初めて? 聞いたこともない?」
「う、うん。君は人間が初めてじゃないの?」
「ないよ。たまに船乗りが来るから」
蜥蜴人だと言う男の子は、僕の声に駆け付けた人々を恐れげもなく眺めていた。
「ラジニ。危ないことをしちゃ駄目だろう」
クレイブ兄さんが心配して僕を叱る。
蜥蜴の男の子が、それを聞きつけて口を挟んだ。
「ここには危ない物なんて何もないよ」
「おやおや。ラジニ君のご同類かい? 可愛らしい男の子だ」
「見た目より俺、大人なんだよ。その子の兄貴ぐらいね」
「危険はないのかい? 君達がこの島の住人かい? どんなふうに暮らしてるんだい?」
みんな口々に男の子に向かって質問するので、彼は面倒臭そうに肩を竦めて見せる。
小柄で顔や体も幼いが、年はいっているのだと言う彼。
「案内してやるよ。ついてきな。それからこのアムリタ草。あとでみんな食って、地上の人への土産にするといいよ。甘くて旨くて、ここの特産なんだ。来た人間は、みんな気に入るから」
蜥蜴の彼は、スタスタと更に島の奥に向かって歩き出す。
ヘルトリンク教授は軍手を填めた手でアムリタ草と呼ばれた草を一毟りして、調べ始める。
安全とは言われたが、船員達はすぐには警戒を解いた訳ではない。それでも蜥蜴少年の後について行く。
「危険はないし、俺達が今の住人だし。どんなふうって、こんなふうさ」
下生えを抜けると、さまざまな鉱石の巨大な結晶が林立したところに出た。
アメジスト、トルマリン、トパァズにサファイヤ。
売れば大金持ちになれると喜んでいる船員もいたが、殆どの人はその圧倒的な美しさに息を飲むばかりだ。
足を止めて見入り、手で撫でさすっている。




