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猫になって

 鳥の羽や獣の皮の切れ端や、白い釣り針のような爪がころりと覗く藁の環は、少し薄気味悪くもあったけれど、だからこそ原住民らしくて妖しい力も宿っているような感じがする。

 それで僕は、リィスを選んだ。

 

 その晩、宿で。

 

 年寄りに教えられた通り、ベッド脇のランプテェブルにリィスを置いて、なりたいものを願いながら、羽ばたく鳥の真似をした。

 

 それなのに。

 

 目が覚めて身体を起こすと、尻にはしっぽと頭には三角の耳が生えていた。

 耳は直接見えないけれど、尾っぽは握って前に回したら、黒と薄茶と白の三色(まだら)だった。

 

 猫、それも三毛。

 

 先生にも含めて、どこか別の世界のもう一人のラジニは猫だと言われるから、それは僕のもう一つの姿なのかも知れない。

 

 それはまあいい。

 

 だが、好きな生き物になれると言われたのであって、僕は自分のもう一つの姿になりたかった訳ではない。

 猫になりたいとすら思っていない。

 

 こんなの間違ってる!!

 

 土産を勧めてきた年寄りの、黄色く濁った目と、酒の臭いはしないが妙に刺激的で獣臭い息が思い出される。

 怪しいは怪しいでも、胡散臭い人間の方だったか。

 

 僕がそんなことを考えていた時、部屋のドアがいきなり開いて何者かが飛び込んで来た。

 ノックもなしでドアを開いたのは、誰あろう。

「おい。ラジニ。今日こそ工場の秘密を探る約束だろう。早く来いよ」

 僕を呼ぶのは、スタァライト水族館シィパァクで一緒にショウを観覧した少年だ。

 名前は、彼名乗るところ、チビ。

 黒いセェタァにズボンに長靴なのは以前の通りだが、彼も耳と尻尾を生やしていた。チビの耳もしっぽも黒だ。

 

 僕は言われて、ふと思う。

 そうだった。僕ら、約束したんだっけ?

 でも。

「工場って、何の工場だっけ?」

「相変わらずラジニは、ぼんやりだなぁ。だから双子の兄さんに、からかわれるんだぜ」

「あれは兄じゃないよ。連中を兄だなんて言われたくないって、知ってるだろう?」

「ミガキニシン工場さ」

 チビが人の話を聞かないのも、以前の通りだ。


「あ、身欠き鰊。おいしいよね」

「身欠き違いだよ。身を欠いたんじゃなく、磨いた鰊の磨き鰊じゃないか」

「鰊を磨いた物。何、それ?」

「だからその秘密を、探りに行くんだろう」

 なるほど。それは理に適っている。


 チビはさっさときびすを返す。寝室のドアを抜けると、ホテルの廊下ではなくそのまま屋外に出た。

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