地底海を行く
「はいはい。もう大丈夫だからねぇ。クレイブ兄さん」
「こいつぅ」
兄さんは腕を解いて、僕の頭を小突く。
船長は落ち着いていたが、それでもホッとしたようになる。
「てっきりここは船乗りの行き着くあの世かと思っていたが、この世の海の続きなら何の問題もない。元の海域に出るところは必ず見つかる。みんな、もう心配はいらないぞ」
船員達は、野太い歓声を上げる。
GLR号をクインセイレン号に係留したりで遅れていたグラッドストン教授も甲板に上がり、合流する。
教授達は、改めてこの探索の事情を説明した。船長は、地底の海と繋がっていることにも不思議ではなさそうだ。
「海にはそう言うこともあるってもんよ」
話を聞くと、クインセイレン号の乗員も島探しに加わることになった。
地上の海を探し回る必要があるから、何も僕らと別れることもないと。
僕らのGLR号は巻き上げ機で、船上に引き上げられた。
風は微風だが、潮の流れがあってクインセイレン号はその潮に乗って十五ノットぐらいで運ばれていた。
目が覚めてから二時間ほどで、潮に入ったのは一時間ほど前だそうだ。
帰還の希望ができた途端、船員達はどんな危険も怖くなくなったのだろう。
生きている限り、冒険を恐れない。
だからこそ、船板一枚下は地獄と言われるような海に出掛けて行けるのだろう。
船員達は島を見つけた時の為に帆を下ろしたり、作業を始めたり、教授達と調査の予定などを話し合い始める。
兄さんもそれ以上僕に構っている暇はなく、さっさと行ってしまった。
見習いで子供のジョゼは、船に上がる前は興奮して騒いでいたけれど、船に上がってのちは僕と距離を取っていた。
また最初に逆戻り、仲良くなったと思ったのは間違いだったのかと思う。
僕が一人になると、ジョゼは不快そうな顔を隠さずに近付いて来て、僕を詰った。
「手紙くれるって言ったじゃんか」
そのことか。それならはっきりしている。
僕はうんざりしながら、
「紙とペン貸して。もうクレイブ兄さんは、放っておこう。僕の局留め郵便局教えるから、君のも教えて」
ジョゼは雀斑の散った鼻を上に向け、目をぐるりと回して見せる。
原因は僕じゃなくて、クレイブ兄さんだと分かってくれたようだ。
「クレイブ兄ィってさぁ。海の仕事はともかく、陸の上では抜けるよね」
「それってびっくり。仕事の時は、問題起こしてないんだ。仕事でも、大ポカやらかしてるとばかり思ってたよ」
僕らは郵便局の住所を書いて、交換し合った。
船舶ラヂオの電池が切れたのでもう使えないことや、前に会った時の後のことを話す。




