出現
「わっ」
僕は叫んで瓶を放り捨て、這いずって船内に戻り、二人の教授の間に潜り込む。
「グラッドストン教授。あれは首長竜ですか?」
「いや。違うな。あれは」
「なんと。船。帆船ではありませんか」
ヘルトリンク教授も、頓狂な声を上げる。
霧を掻き分けて現れたのは、堂々とした木造帆船だ。
僕はデジャヴを感じる。
既視感も何も。
舳先に見える船首像は、間違うべくもない。
「クインセイレン号」
「フライングダッチマン号のようなものかね?」
海上を彷徨う幽霊船。
「違いますよ。僕の兄さんが乗り込んでいる船です。一番上の」
帆船の方でも、僕らの舟、GLR号に気付いたようだ。
「おーい。そこの人ー。あんたらなにもんだ~」
「そちらがクインセイレン号で。えーっと、ラジニ君。お兄さんの名前は?」
「クレイブです」
「クレイブと言う船員がいるなら、その子の弟も一緒にいます」
「クレイブの弟?」
僕は二人の間から、ヒョコッと顔を出す。
舳先の側に数人の船員がいるが、その中に兄さんはいない。こっちは前に会った誰とも分からなかったが、向こうは分かったようだ。
「あっ、本当だ。一緒にいるのは、あの先生とは違うみたいだが」
「二人とも、彼とは親しくさせて戴いていますよ」
「とりあえず話がしたいんで、こちらの船に上がって貰えないかね」
何でクインセイレン号が地底海にいるのか、こちらも聞きたい。教授達もそれは同じで、喜んで了承する。
それともここは地底と見せて、洞窟内で別空間と繋がっていて、珍しい魚のいる海域に出ただけかも知れない。
魚の専門家が見たことのない魚だったのは、新種の魚だったと言うこともある。
言い付けられて、僕は船外機を止めた。
僕らはクインセイレン号の船腹に、我等がGLR号を付けた。
船から梯子が下ろされる。
その時には、兄さんもジョゼも船端に覗きに来て、色々と叫んでいた。グラッドストン教授が僕に、背負って梯子を上ろうかと言ってくれる。
もちろん僕は、
「自分で登れますよ。下さえ見なければ大丈夫だと、もう知っていますから」
梯子は真っ先に、僕から登った。
波の所為で梯子も揺れて少し登りにくかったが、大した問題はなく上まで辿り着く。
手助けしようと言うのか、時間が一秒でも勿体ないのか、手が届くところまで行くと逞しい腕が何本も伸びて来て、僕の襟首や肘やベルトを掴んで素早く船上に引きずり込まれた。
何人もの人に、僕はつつき回される。
「おい。生きてるぞ」
「いや。この子達も死んでいるのかも知れないぞ」




