はじまり はじまり
目が覚めたら、僕は猫になっていた。
眠る前に、お呪いをした所為だとすぐに分かる。
先生との旅の中、ふと立ち寄った原住民の居住地と言うところで、色々と不思議な効能書きのあるお土産を売り付けられた。
その居住地は、ちょっと妙な造りをしている。
聞けば、国から与えられたセメントの箱みたいな住居の見た目が、みんな気に入らないのだと……。
建物と建物の間の道路に、本来の住居であるテントの布地を張り渡してトンネルにしてあった。
灯心草の燃える皿が点々と置かれた通路は、薄暗くて煙ったい。
それだけでは煙が足りないと言うかのように、ウロ付いたり蹲っている大人達は腕ほどもある長煙管をプカプカやっていた。
本物の葉っぱだけを使っているから、薬草っぽい匂いがする。
子供は、見かけなかった。子供達は便利で真新しくて快適な家の中で、テレヴィゲィムに夢中なんだって。
居住地の広場も張り天井が掛かっていたけれど、中央部が丸く刳り貫かれて、日の光が差し込んでいる。
その広場に、祖先は部族の呪い士だと言う年寄りがいた。
他の住人と同じく、黒地に赤や黄色の細かい刺繍の施された民族衣装を着ていたけれど、服に覆われていない手や顔の赤銅色の肌には、白い渦巻きや矢印・線と言った模様が描かれている。
部族に伝わる、守りの文様なんだって。
性別を聞くのも失礼なので聞かなかったが、年寄りが男なのか女なのか、見た目でも声からも、判断が付かなかった。
その老人が見せてくれたのは。
幸福を掃き寄せる、馬の毛束の箒。
なかなか素敵だけれど柄だけで百センチもあって、旅回りには持ち運べない。家族に送っても良いと言うなら別だけど、それは出来ない相談らしい――残念。
魔除けの目玉石。
赤瑪瑙の斑紋をうまく切り出して、丸い虹彩が楕円の石の中央にくるようにしていた。
遊び心のある細工が楽しいと、先生が買い求められた。
食べると声が美しくなる蠍の酢漬け。
蠍!? うげーっ。
僕は歌手になりたい訳じゃないし、声が美しくならなくてもいい。
何度も塗ると皮膚の色が抜けて、文様が白抜きされて暫く保つ膏薬。
面白くてちょっと気になったけれど、原住民風化粧を施したまま生活するのは流石に変なので、止めにした。
そして、色んな生き物の毛や爪や歯を編み込んだ藁のリィス。
枕元に置いて眠ると、夢の中で好きな動物になれると言われた。
僕は、鳥が好きだ。
鳥祭りで沢山の鳥を見て以来、鳥が好きだと気が付いた。
ネズミも可愛くて好きだけれど、なるなら鳥の方がいい。
何と言っても、鳥は空を飛べる!!