第五章 決着
二人の騎士の決闘が終盤を迎えた時。
「すッ、すげ~!」
ファルクは審判をしながら、奇襲から始まったマキシム様の怒涛の攻撃と、それを凌ぎ切ったコウの守備を目の当たりにして、思わず声に出していた。
それほど、二人は凄まじく巧みな攻防を繰り広げていた──が、思っていた通り防戦一方になっているコウを見て『フローリア姫を悲しませるなよ!』と、心の中で呟いた。
*
『マキシム様に勝つには懸けるしかないッ!!』
コウは前日のフローリア様ファルク様戦で、フローリア様が魅せた、搦め手を参考にした攻撃に、自身とフローリア様の運命を懸ける事にした。
「さあ、来いッ、コウ!!」
不死赤鳥から漂う、コウの決意に満ちた気合いに、マキシムは叫んだ。
コウがどのような攻撃を仕掛けて来るか、楽しみで仕方なかったからだ。
『コウ。お願いッ、勝って!!』
幸福青鳥から迸るマキシム兄様の覇気と、不死赤鳥から漂うコウの気合い、決着が近い事を察して、フローリアはギャラリーの手前、心の中でコウの勝利を祈った。
ファルクも、死力を尽くした二人の決闘が、最終局面に入った事を感じ取り、何も見逃すまいと気持ちを新たにしていた。
そして、最後の攻防が始まった。
コウは不死赤鳥の左円等腕に持ったMFベレットの弾丸を、幸福青鳥が楯で防ぐと予想し、操縦席付近目掛けて最後の数発を撃ち込んだ。思惑通りにマキシム様の視界から不死赤鳥を隠すと、幸福青鳥の50メートル程下方に移動して、銃刃剣を幸福青鳥目掛けて投げつ付けた。
マキシムは不死赤鳥が撃った弾丸を楯で防ぐと、正面を確認する事なく下だと判断して艇首を下に向けた。
「ぬッ、コウめ、フローリアと同じ手で来おったかッ!!」
マキシムは聊か失望しながらも、余裕をもって躱し、コウの次の動きを予測し艇首を向けると『儂に、一度見た奇策なんぞ通じるかッ!!』と、心の中で叫びながら逆に銃刃刀で反撃の斬激を放った。
コウはマキシム様のそんな声を聞いた気がしたが『まだまだ、本当の奇策は此処からッ!!』と、斬激が迫る中、逆に幸福青鳥に突撃して銃刃刀のシリンダー部分を、不死赤鳥の左円筒腕で受け止め、同時に右円筒腕の三本指を幸福青鳥の左円筒腕の三本指に絡めて、艇首をぶつけ合いながら、プロレスの力比べの様な鍔迫り合いに持ち込んだ。
コウはパワーで勝る不死赤鳥のエンジン出力を武器に、マキシム様に感づかれないよう幸福青鳥を目的の場所まで誘導していた。
マキシムはエンジン全開の不死赤鳥に少しづつ押されながらも、コウの隙を窺っていた──が、銃刃剣を手放した不死赤鳥に勝ちは無いと、半ば勝利を確信していた。
そして、決着の時が訪れた。
コウは意図的に幸福青鳥の銃刃刀を抑えていた左円筒腕の力を弱めた。
「これで終わりだッ!!」
マキシムはそれをチャンスと感じ不死赤鳥の左円筒腕を引き剥がすと、再び銃刃刀で斬りかかった。
「今だッ!!」
コウは不死赤鳥を幸福青鳥の左上にスライドさせ、右円筒腕で幸福青鳥を不死赤鳥の右下に引っ張り込んだ。そして、右円筒腕を幸福青鳥の銃刃刀に断ち斬られながら、落下して来た銃刃剣を左円筒腕で受け止め、幸福青鳥の操縦席に寸止めした。
「そッ、それまで。勝者コウ!!」
拡声器によるスライトリー侯爵の勝ち名乗りに、地上は大騒ぎになった。
「コウの奴、やりましたぞ姫!!」
「「「おめでとうございます姫!」」」
「はい……ッ」
騎士仲間からの祝福の言葉に、フローリアはそう返事をするのがやっとだった。心配と嬉しさで涙が止まらなかったからだ。
*
勝ち名乗りを受けたコウは、搦め手とは言え初めてマキシム様を破った実感が芽生えると、一瞬、全てを忘れて「やった~ッ!!」と、喜びを爆発させた。純粋にマキシム様に勝てた事が嬉しかったからだ。
マキシムは当初、手放した筈の不死赤鳥の銃刃剣に操縦席を寸止めされて敗れた事で、狐に化かされた気持ちになったが、何が起こったのか理解が及ぶと、負けた負けたと愉快に笑うのだった。
そして、二艇の竜は皆の所に帰っていった。