第三章 勝つヒントとマキシムの思い付き
2人の騎士が決闘する前日。
フローリア姫と、ファルク・ギビ=スライトリー侯爵の駆る竜が、模擬戦をしていた。
「ファルクの奴、相変わらずだな」
「「「然り!!」」」
二人の模擬戦を観戦していたマキシムがそう漏らすと、周りの騎士達も、それに賛同の声を上げた。
堅実、それがファルクの闘い方なのだ。
慌てず確実なチャンスを待ち続ける。何処かの偉人の様な奴で、この国では珍しい肩先まで伸ばした軽いウェーブの金髪に、切れ長の目、美女と見紛う美丈夫で、性格とのギャップも相まって、女性から非常に人気のある奴だ。
『フローリアでは、まだまだ無理か』
マキシムは、行われている模擬戦にそんな感想を持ちつつ、二人が駆る、同型の竜の性能に満足の笑みを零していた。
*
艇体名 〝VF03平和白鳥〟
コウの不死赤鳥と儂の幸福青鳥からデータを取り、戦闘力と操縦性の折り合いを付けて製造した末妹艇だ。
先の二艇との違いは、主に、菱形を横にした様な主翼に、浮遊石の羽が一対と、液冷倒立I型6気筒のサイレンTIF型エンジン2機の、プロペラ双発で、パワーとスピードを落とし、操縦性を向上させた所であろう。
同じ名番のものが9艇存在し、開発コードヴァルキュリアの女神の名を其々(それぞれ)に与えてある。
因みに、ファルクが駆るのが 〝ブリュンヒルデ〟 フローリアが駆るのが 〝ロスヴァイセ〟だ。
この量産型により、平和を勝ち取れるようにと名付けた、純白の、美しい竜である。
審判役を務めているコウは、二人の竜の動きを見ながら、互角に闘っているように見えて、ファルク様の方には余裕が有るのを見抜いていた為、思わず自分の務めを忘れて、心の中でフローリア様にエールを贈っていた。
フローリアは、竜同士の正攻防では、ファルク卿の方が一枚も二枚も上手だと分かっていたが、少し離れた所で審判をしているコウに、良い所を見せたいと思う女心から、前から考えていた搦め手を実行した。
コウはその一部始終を間近で見ていた。
竜の主武器である銃刃斧を相手に投げ付け、躱先に回り込み、マシンガンで剥き出しの操縦席をロックオンしたのだ。
あまりの事に一瞬固まった[マキシム様を含む皆も仰天していた]が、「……それまで。勝者フローリア様!」次の瞬間には勝者の名前を叫んでいた。
*
「おめでとう、フローリア!!」
寡黙なコウが、不死赤鳥を平和白鳥の直ぐ隣りに着水させると、フローリアに駆け寄り感情を爆発させて思わず抱きしめていた。
「きゃッ!!」
普段マキシム様と言う天才と模擬戦を行い、一度も勝った事の無いコウは、フローリア様が、竜の騎士として格上のファルク様を負かした事が、心底嬉しかったのだ。
「ごッ、ゴメン!」
コウは、姫様の声に失礼な事をしている事に気付き、直ぐに離れて謝罪した。
「いッ、いえ、むッ、寧ろ嬉しかった……です」
「えッ!!」
『いッ、今嬉しかったて──聞き……間違いだよな……』
コウもフローリアも照れて俯いてしまい、この後如何すればいいか分からないでいた。
*
その少し前、ファルクが平和白鳥をフローリアより一足早く着水させて、マキシムらの所に戻って来た。
「聊か堅実に行き過ぎたなファルク」
儂が冷静に指摘すると、他の仲間からも、もっとチャンスで攻めるべきでしたな。との声が上がった。
「いや~、今回はフローリア姫の奇策に見事に嵌められましたよ!」
ファルク本人は、余り気にしていないのか、ゴウグル付きの皮メットを外すと、目に掛かった金髪をかき上げて、そう報告した。
マキシムは、一々爽やかな奴だと思いながら「まあな、儂らも、まさか銃刃斧を投げて囮に使ってくるとは、驚いて開いた口が閉じなかったわ!!」
マキシム達がそんな遣り取りをしていた時、離れた所から、珍しいコウの感情の籠もった声が聞こえて、皆そちらに顔を向けた。すると、コウがフローリアを抱きしめた後、互いに照れて俯いて固まっている所に出くわした。
それを見たマキシムは思わず呟いた。
「もしかしてあの二人好き合ってる?」
仲間の騎士から何を今更的な顔で見られながら「気付いておられなかったのですか?」とファルクに代表で言われ。
「いッ、イヤイヤ知っていたぞ。……確認だよ確認! そッ、それよりも敬語になってるぞファルク、仲間内では対等に接するよう言ってるだろッ!」
と、誤魔化して見たものの、皆のジト目に耐えきれず、再び、固まっている二人に目を向けた。
「しかし、二人の身分の差ではどうにも……」
仲間の一人の一言で、皆が儂に、どうにかなりませんか的な目を向けていた。
『確かに……しかし……いやッ!! その手があったッ!!』
二人を見て何かを思い付きニヤニヤと笑うマキシム。
そんなマキシム様を見て、楽しくも巻き込まれてきた騎士達は、フローリア様とコウに取って、良い方向に向かうよう祈らずにはいられなかった。