第二章 竜の御披露目とフローリア
二人の騎士が決闘する一ヶ月程前。
その日、西側諸国連合の人々は歓喜した。
今まで、殆ど抵抗できず好き勝手に蹂躙されていた──トゥエル=パロ統一帝国が誇る飛行艦隊を、撃滅したのだ。
それを成したのは、困難な時に政治を弟に押し付けて、国民から駄王と呼ばれ、マキシム王の道楽と言われた特殊飛行艇。騎士が駆る竜だった。
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戦場に居合わせた者は、敵味方関係無く驚愕した。
後退を繰り返していた連合に取っては、望外の戦果。たった11艇のプッシャー式の特殊な飛行艇が、敵を次々に撃破して行く夢の様な光景。
快進撃を続けていた帝国には、信じ難い悪夢。超人[この世界には第六感に優れ、最低レベルの者でも、我々の世界で言えば全ての個人競技で金メダルを取れる力がある者を、騎士と呼ぶ]である騎士のみで構成した、艦載機がまるで歯が絶たず、虎の子の飛行戦艦や飛行空母を紙を斬る様に一撃で屠って行く、特殊な飛行艇と、それが持つ特別な武器。
後に、戦争を勝利に導いた英雄王と呼ばれる、天才。マキシム・レビ=フローレンスの三大兵器[竜・銃刃・原爆]の内、竜と銃刃の初御披露目だった。
帰還した、マキシムを含む11名の竜の騎士が、歓呼の嵐で迎えられたのは想像に難くない。
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竜の初御披露目から数日、マキシムは機嫌が悪かった。
連日、連合から竜や銃刃に関する問い合わせが殺到しているが、そんな事は分かっていた事だし、全て弟の、トレビア・レ=フローレンスに任せているので関係ない。
けして押し付けている訳ではない、適材適所と言うやつだ──弟には言いたい事があるかも知れないが?
なら何故機嫌が悪いのか、その原因は、仲間の一番若い騎士にあった。
「それまで。勝者マキシム様!!」
審判役の騎士の勝ち名乗りにも、憮然とした顔で幸福青鳥を着水させるマキシム。
此処はカタリア・クルツ王国の半島が面する内海、アドリナ・エレーゲ海にある浮島。後に、ホテル、アドリナ・エレーゲになる、マキシムの秘密な別荘兼、竜の製造及び訓練地だ。
「コウの奴、儂が王だからって手を抜いてやがるな」
マキシムはそう呟くと、そう思う切っ掛けに為った事を思い返した。
数回前の訓練の時、儂の駆る幸福青鳥の後ろに、一瞬で周り込まれた事があったのだ。
結局その模擬戦も儂が勝ったが、周り込まれた際に攻撃されていれば、儂が負けていただろうと思えたからだ。
コウに問いただしたが、後ろに回り込めたのは偶然で、本気で闘っているとの事だったが、あれだけの動きを偶然で出来るとは思えず、マキシムの疑惑は更に深まるのだった。
コウは、マキシム様との模擬戦で、幸福青鳥の怒濤の攻撃に「やっぱ天才だッ!!」と、思わず叫んでいた。
その怒濤の攻撃を最後まで凌ぎ切る事が出来ず、今回も敗北した。
そう、マキシム・レビ=フローレンスは天才である。竜や銃刃の設計に、原爆を作る頭脳だけでなく、騎士としての剣の腕前や、竜の操縦でも右に出る者はいなかった。
だが、コウも騎士、竜の騎士としての才能はマキシムに劣るものではない。ただ、まだ10代と若いコウは成長段階にあり、めきめきと腕を上げている事に本人とマキシムだけが気付いていなかった。
コウは不死赤鳥を着水させながら、マキシム様の期待に応えられていないのを不甲斐なく思うと共に、マキシム様に手を抜いているなどと、あらぬ誤解を与えてしまった自分の口下手さに歯噛みしていた。
そう、コウは手加減など一切していない。それどころか、マキシム様に勝つ為の戦闘考察や操縦技術の向上に励んでいた。それに、幸福青鳥の背後を取れたのは本当に偶然で、実は操縦ミスが生んだ勝つチャンスだったのだが、余りの事に一瞬固まってしまい逃してしまったと言うのが真相だった。
「お疲れ様。今回も残念でしたね」
そんな事を考えながら操縦席から項垂れて出ると、一人の少女から女へと成長途中の可愛い女性が、慰めの言葉を言ってタオルを手渡してくれた。
「フローリア様ッ!! 態々(わざわざ)ありがとうございます」
コウは、ゴウグル付きの皮メットを外すと、恐縮しながら受け取ったタオルで汗を拭きつつ、手渡してくれた女性に視線を向けた。
フローリア・レビ=フローレンス姫様。マキシム様の腹違いの妹で、名前にビの称号があるとおり騎士で、竜の騎士の紅一点であり、澄んだ蒼く長い髪を後ろで軽い三つ編みに一纏めにしている、コウ憧れの可憐な女性である。
「もう、そんな他人行儀な言い方は止めてください! 私も騎士仲間の一人何だから」
「ゴメン、フッ、フローリア、タオルありがと」
寡黙で表情に出にくいコウが照れている事が分かって、フローリアは思わずはにかんだ。
周りの仲間達も、二人がお互いを憎からず思っている事に気付いており、暖かく見守っているが、二人の間に立ちはだかる身分差は、仲間には如何しようもなかった。
フローリアも、その事は弁えていて、甲斐甲斐しくコウの世話をしながら、今がずっと続いて欲しいと願わずにはいられなかった。