005.◆スーさんとクーさんの作戦会議
「それではぁっ!第一回ぃーっ!作戦会議を、はっじめっるよーっ!」
「……? はい」
んっんー。
「うんっ!なんかごめんねっ!」
「ふぇぁ?え?あの?はい……?」
クーさんに無理言って困らせちゃったみたいだからねっ!
ちょっと心機一転テンションあげてこーと思ったんだけどねっ!
いささか唐突だったよねごめんねっ!
……心底きょとんとしたクーさんのリアクションがボクの止まって久しい心臓にぶっ刺さってヤダもう辛い。
…これが…恋……!?とぅんく。
なんて、脳内茶番劇繰り広げてたらいよいよもってクーさんに愛想尽かされかねないのでさっさと気を取り直そうそうしよう。
「まぁ、ちょっとふざけてしまってごめんなさいなんだけどね。うん。
作戦会議をしましょう。ね」
「ええ、そうですね。
……あの、スー?先ほどから少し様子が、その、一貫しないと言いますか……。
適切な表現が…じゃなくってええと……うまく言えないですけど、その、大丈夫ですか?」
「大丈夫!スーさんは大丈夫だからねっ! 作戦会議しようっ!ねっ!」
くぅ。心底から心配そうなクーさんの言葉が染みるぜ。
「んーっと。まず確認。クーさんの目的は、自殺なわけだよね」
「はい」
よーぅし、止めるぜー、超止めるぜぇー。
けど、言葉でホイホイひっくり返るようなもんでもないだろうから、クーさんにくっついてって隙あらばどうにかする。
これが基本方針。
「じゃあ、クーさんはさしあたってどうしよう、とか、何から手を付けよう、とかある?」
「そう、ですね……」
考え込む様子のクーさん。空から落っこちてきて壊れないなら、そりゃ生半可な手段じゃ自殺もできないんだろう。少なくとも飛び降り自殺じゃ無理だよね。ヒモなしバンジー何万mは体験済みなわけだし。
「……初めは、この天体の重力圏から脱出して、この天体の周囲を旋回するブラックホールへと自己を投棄する方針でした。ええと…空を飛び超えて、宇宙へ身投げする、と言えばいいでしょうか?
この手段は可能でしょうか?」
「んんー……」
今度はこっちが考え込む番だ。
ボクがこの星にやってきてから3年くらい。
この星を出て行きたいっていう人はいくらも見たけど、一定を超えて空を飛びだそうって考える人は見たことない。
まず、空を飛んで宇宙へ、って発想ができるヒトがまずある程度限られてたし、そういう発想ができるヒトは、今クーさんが言ってたブラックホールの危険性を理解してるから、その手段を避ける。
この星を出ていこうとする人は、ほぼイコールで『生きて故郷へ帰りたい』って人だから、そりゃそうだよねってもんだ。
けど、そーだな―……。
「できるかできないかで言ったら、試すことはできる、かな?でも、結構難しいと思う。
厄介な障害が…えーっと……3つ、かな。うん、3つあるんだ。
うん、だからね、難しいからね。考え直そう?」
「……スー。構いません。障害というならその障害を教えてください」
だーよねー。このくらいじゃ考え変わんないよねー。知ってた知ってた。
「んーっと、まず一つ目。空を飛ぶ生き物が怖い。代表格はエルダードラゴンとかなんだけどー、知ってる?ドラゴン」
「………名称だけならば。けれど、あの、スー?
私の言語記憶領域によれば、それは古くは神話伝承、比較的新しくとも幻想娯楽創作に登場する怪物、と記述されています。
ですから、ええと……空想上の存在なのでは?」
あ、空想上とはいえ一応知ってはいるんだ。そこそこ多い反応。かく言うスーさんもこの星に来たばっかの時はそんな感じだったなー。なつかしいなー。
けどこれ、現実なのよね。
「今日は雨降りそうだし飛んでるとこは多分見られないけど、いるよー。
温度変化そのほかにずば抜けて高い態勢を持つ鱗に包まれてて、皮膜の翼で空を飛び、超高熱のブレスとか吐いちゃうヤーツ。
話せばわかるヒトもいるけど、基本的には『こっちが気持ちよく空飛んでるんだから目の前うろちょろするな小虫が』ってノリで、空飛んでると撃墜されたりすんの」
『物流の革命だー!』って勇んで飛行船を作り上げたヒトが、初飛行のその日のうちに撃ち落された事件とか、そこそこ話題に上がる噂話だ。いやな事件だったね。
「ううん…超高熱のブレス…じゃ、たぶん破壊要件は満たしきれないし、やっぱり突破しなくちゃかな……
…こほんっ。
けれど、今日のような日であればその姿は見られない……のですよね?
遭遇を避ける術はあるのでは?」
あ、そこ気づくんだ。やりおる。
「うん。実際、ドラゴンに会いにくい場所とか条件とか整えれば空飛べるのは飛べるみたい。まぁ、あくまで『会いにくい』だからね。気まぐれで遭遇することもざらにあるって聞くし、万全じゃないかな」
ちらっ
「いえ、十分です。ドラゴンとやらに破壊されるならばそれで目標は果たされますし、そうでないならば何度でも再試行は可能ですから」
やっぱりまだ諦めませぬかー。
「んじゃ、次の障害なんだけど、高空船団って言ってね。
クーさんみたいに空から来たヒトたちからすると、地上に住んでるようなヒトとか生き物とかって『よくわからない脅威』みたいでさ。距離を置いて接触を避けるためってことでずぅっと空に浮かびっぱなしの宇宙船に引きこもってるのさ。
そのヒトたちからすると、地上から接近してくるモノは今言った通り『よくわからない脅威』だから、歓迎はされないよね、っていうことみたい。
まぁ、その高度にたどり着くヒトは滅多にいないんだけどさ。
言葉は一応通じるから、『近づいたら撃ち落とす』っていう、声明?だっけ?それは出てるんだってさ」
本家案内人が言ってた。
いやー、聞いてた時はきっと自分とはかかわりのない世界の話なんだろーなーって思ってたね実際。
「高空船団…ですか……」
……あれ?さっきに比べてずいぶん深刻そう?
「……いえ、いっそ撃墜声明が出ているならば攻撃を受けるという手段も…うーん…けど、鹵獲されるのは最大限警戒すべき事態だし…」
お、これは……
「考え直す気になった?」
「そう…ですね。
できるだけ慎重を期する必要があるみたいです。ありがとうございます、スー」
むぅ。まだ諦めるほどじゃない、か。
まぁ、慎重になってくれるってことは、その分考えを改めるまでの猶予期間が長いってことだ。
それだけでも良しとしとこ。
「確か、障害は3つというお話でしたね。参考までに、もうひとつの障害についても教えていただいてよろしいですか?」
「いいともー」
臨時とはいえ案内人だからねー。
「もう一つっていうのは、『世界のための捜索と封印』っていう組織の天上教会が管理してる”空”と”宇宙”の間に張ってある複合障壁。なんか、科学と魔法?を組み合わせた?天体規模の結界障壁?で?入ってくることはできても、出てくのはすごく難しいんだってさ」
「複合障壁…科学と魔法に天上教会、それに『世界のための捜索と封印』、ですか……」
空想の話と疑う意味さえないのでしょうね、って、クーさんの独り言めいたつぶやき。
いぇす、ざっつらいと。
「……少々話は変わるのですけれど。スー? その、『世界のための捜索と封印』とは、どういった組織なのですか?」
「んー、まぁ大体名前通りかな?
元の世界で手に負えなくなって追放された挙句に、この星に流れ着くような危険人物とか危険生物とか危険物とかも少なくなくてさ。
そういうのがむやみに被害を広げないように見つけ出して封印するのがお仕事の組織」
ん?今なんか引っかかったぞ?
「なるほど」
なんか、やけに晴れやかに聞こえるような気がするクーさんの声が、引っ掛かりに拍車をかける。
―――あ。
「では、故郷から自己の投棄を命じられた危険物であるところの私も、ぜひとも封印していただきましょう」
そういうことかぁーっ!




