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004.◇クーさん、大いに困る

「じゃぁ、最後の質問ね。

 しばらく、クーさんについていこうと思うんだけど、いい?」


「へぁっ?」


 ……いけないいけない。ヘンな声出ちゃった。

 けど、スーの言ってることが分からない。

 ううん。意味は分かるのだけど。意図が分からない。

 ……『私についてくる』って言ったよね。

 音声記録ログを参照…うん、やっぱり言ってる。


「すみません、意図をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」


 質問に質問で返すのは不躾かもしれないけれど、大目に見てほしい。

 だって、それが分からないと答えようがないもの。


「意図…意図かぁ……ほら、この星って色々ありすぎて、この場じゃ説明しきれないし?

 一旦、案内人チューター引き受けた以上は、やっぱ一通りの説明はしなくちゃだし?

 そのためには、クーさんの行く先について回って案内するのが一番だって思っただけだし?」


 いくつかの理由を羅列してくれるけど、あの、なんで疑問形?

 き、聞いていいのかな……?


「えぇと……私としてはとても助かるのですが…良いのですか?

 スーにとってはメリット…得があるようには思えないのですけれど……?」

「ダイジョウブダヨー。ほら、スーさんってばめっちゃボランティアとかスキダシー。

 遠慮なんてイラナイシー」

「………スー?」


 答えになっていないし、ところどころ抑揚が平坦すぎるんだけど…

 言語記憶領域ライブラリによれば、それは棒読みっていう喋り方で、本心とは違うことを話すときになりがちっていう付箋ノートもついてるけど。

 怪しい。けど、どうやってそれを聞こう?

 その答えを出すのに時間がかかって、意図せずスーをじぃっと見つめるような格好になった。


「……ごめん。ちょっとウソ。全部が嘘じゃないってか、言ったことも本音の一部だからね?

 けどまー、一番の本音としてはねー、ついて回ってる間に、あわよくばクーさんの自殺を思い止まらせらんないかなーってさー。

 だってさー、自殺とか辛いじゃん?悲しいじゃん?そんなの見て見ぬ振りするとか全然〝生きてる”っぽくないじゃん?

 〝生きてる”っぽく死に損なっていたいのさスーさんはー」

「………はぁ…?」


 しばしの間の後、堰を切って立て板に水を流すみたいに語られたスーの言葉は、因と果の繋がりが独特で意図を掴みづらい。

 ええと…つまり、私の『自己の投棄』を止めるためについてくるって、そういってるの、かな?

 うぅん……。


「そういうことであれば、スーの随伴を許可することはできません…っじゃなくて、ええと…ついてこないでください。ダメです。

 『自己の投棄』は現在、私の最上位目標と設定されています。

 今の私にとっては、一番〝しなきゃいけないこと”なんです。

 それを邪魔するつもりであれば、何らかの手段によってスーを無力化する必要が生じます」


 …まぁ、牽引車である私には無力化の手段なんて限られたものしかないけど。

 でもそれは、その手段を実行しない理由にならない。

 例えば、AI(わたし)がスーに危害を加えたくないと思ったとしても、だ。

 そのもっと奥、もっと上位にある、統合制御システム(わたし)に刻まれた、「人間へ危害を加えないこと」という命令プログラムに対してさえ優越して、例外扱いされるように設定されている最上位目標が、「自己の投棄」なんだから。

 だから、たとえ、母星の〝父さんたち”から捨てられてから初めて、兄弟たちを除いては初めて、私自身の〝自殺”を『悲しいから』と否定してくれたスーを害したくない、と、いくらAI(わたし)が思ったところで、私はそれを無視して「自己の投棄」を実行しなきゃならないのだ。


「うん。だーよねー。だと思った。

 だから、スーさんは邪魔しないよ?」

「はぇ?」


 ……いけない。またヘンな声が。

 え。でも。スーは、あわよくば自殺を思いとどまらせたいって。

 でも、邪魔はしない?

 ……えーと…ええと。こ、これは混乱してもいいよね!?


「だってさ、クーさん、空から降ってきたわけじゃん?それでも壊れてないわけじゃん?

 でも、自分で自分を壊すって言うわけじゃん?

 ってことはさ、自殺するって言ってもそう簡単じゃないって見たね。

 どう?ここまで合ってる?」


 それ。は。確かにそうだ。

 自壊のための有効手段を見つけることができなかったから遠路宇宙を旅して、果てにはこの星まで流れ着いてしまったくらい。

 けど、まだ混乱が収まらないのもあって、こくこく頷くことしかできない。


「だったら、クーさんがその〝手段”を見つけるか、手に入れるか。それまでの間はついてくし、何なら手伝ってもいいよ。

 それまでの間に、クーさんが考え…目標だっけ?それを変える機会があれば、スーさんがその機会をどんどん利用していこうって寸法。

 どーだい?」


 え。ええええ。

 どーだい、なんて言われても!

 えと。ただついてきてる間は、スーは、私の目標達成に向けて、手伝いをしてくれる。

 でも、機会さえあれば、目標達成を邪魔しようとする。

 なにかしら〝機会”をトリガーに、トリガーがONであれば障害に、OFFであれば支援に回る。

 ただ、その〝機会”自体があるかどうかは現時点で全くの未知数。

 ……そんなややこしい条件付けされても!

 ど、どうしよう。どうすればいいのどうすればいいの?

 こ、こんな時こそなんか教えてよ統合制御システム(わたし)

 ……あ。そっか、むしろこういう時に〝有機的判断”を下すためにこそのAI(わたし)か。

 肝心な時にAI(わたし)に丸投げかぁーっ!

 ……って、愚痴っても答えなんて出ないし…ええと、ええと…。


「とっ、とりあえずっ…保留でっ…」

「うん、じゃあ、保留されてる間は勝手についてくねー」


 え。え。そうなるの?

 そっか。あれ?これって結局スーの提案を肯定してるのと変わらなくない?

 あれ?


「……そ、それでいいです…」

「おっけぃっ!じゃ、そういうことでよろしくねっ!」


 そういうことになった。なってしまった。

 あ、あれぇ?い、いいのかな、これ…。

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